第794話 カレーは飲み物(エイデンとノワールは)
ログハウスのリビングはカレーの匂いで充満している。
そして、目の前でガツガツとカレーを食べているエイデンとノワール。二人のあまりの勢いにマリンは呆れて、自分の口にスプーンを運ぶのすら忘れている。
ダンジョンに戻ってから二日目のお昼過ぎに、二人はログハウスへと戻ってきた。今はお昼ご飯中だ。
ノワールは口の周りにカレーを付けまくっているので、私がティッシュで拭ってやる。
それに気付いたのか、エイデンがジーッと見てから、自分も口の端にカレーを付けた。
――子供かっ!
私が「ふんっ」とティッシュを渡すと、しょんぼりするエイデン。
「で、皆は無事だったのよね?」
「ん、当然だ。あの程度のダンジョンでどうにかなるほど、奴らは弱くないぞ」
エイデンはティッシュを受け取り、口元を拭う。
「まぁ、何もなかったんならいいけど……それよりも、だよ」
私はグルターレ商会とガズゥたちの現状を話す。
「まぁ、商会のほうは自分たちでなんとかするだろう。だてに長く行商をやっているわけじゃないし」
水を口にした後に、エイデンが答える。ノワールはモグモグと夢中で食べていて無言だ。
「それよりも、問題は白狼族のほうだな」
「うん。なんかヤバそうな人もいたみたいでさ。精霊たちがなんとかしてくれたようなんだけど」
「おお、そうか。お前ら、よくやったな」
エイデンが部屋の中を飛んでいた風の精霊に声をかけると、彼らはキャッキャとご機嫌に笑っている。
「まぁ、あいつらは五月から色々渡されているから、そうそう酷い目には会わないだろうがな」
「そうなの?」
「ああ」
ニヤリと笑みを浮かべた後、皿に残っていたカレーを流し込むエイデン。まさに、『カレーは飲み物』だ。
「ん、お代わりは?」
「あるよ」
私はエイデンの皿を受け取ると、「んっ!」とノワールも皿を差し出した。
――ノワールも『飲み物』のクチか。
苦笑いを浮かべながら、私は二人の皿を持ってキッチンに向かった。
* * * * *
「で、実際のところ、どうなんだ」
厳しい目つきのエイデンに、風の精霊たちはすすーっと近寄る。
『だいじょうぶ、は、だいじょうぶだけど』
『ガズゥのほうが、イライラがばくはつしそう?』
『ぼくたちがついたときは、おんなのこたちからにげてた』
「モテモテってことだねー」
ノワールがコップに手を伸ばしながら言う。
「ガズゥにしてみたら、面倒なだけだろう。ネドリはどうだ」
『ネドリは、ちかよるのもこわいかんじー』
『あれも、じかんのもんだいー』
『でも、はくろうぞくのほうも、ねばってるー』
『しつこいメスもいるー』
『あー、あのメスなー。ガズゥよりおおきなこどもがいるのに、ネドリにへばりついてるやつー』
「そいつをハゲにしたのか?」
『ん? それとはべつー』
『あのメスは、しつこそうだ』
『ハノエがみたら、しゅんさつだな』
『ハノエのほうがびじんー』
『ハノエのほうがかっこいいー』
「ははは。そうか。しかし、なんでさっさと儀式をやらないんだ?」
『なんか、きたのもりがあやしいんだって』
『ぎしきをするのはきたのもりー』
『よりみちしたのは、それをみにいったのー』
精霊たちの言葉に、エイデンは眉間をよせて考え込む。
――白狼族の里の北の森。あの辺は確か、俺が籠っていた北の山の裾に広がる魔の森と繋がっていたような。
「はい、お代わりね。これで最後よ」
五月が山盛りのカレーを持ってきたことで、エイデンの思考は止まる。
「わーい!」
「ありがとう、五月」
ニコリと笑い受け取ると、五月もまんざらでもない顔をする。
――一度見に行かないとダメだな。でも、その前にカレー、カレーと。
真剣な顔でスプーンを握るエイデンなのであった。