第793話 風の精霊が調べてきた(白狼族の里)
寸胴鍋に入っている出来上がったカレーは、タブレットの『収納』にしまいこんだ。
マリンは味見で満足したのか、子猫の姿になってセバスのもこもこのお腹の中に入りこんでお昼寝モードだ。
部屋の中はカレーの匂いが充満していたので、窓を開けて換気をする。
その間にコーヒーをいれながら、風の精霊たちのワキャワキャ言う話を、うんうん頷きながら聞いている。
『なんだってよりみちなんかすんだよ』
『おまえだって、いいねっていったじゃん』
『いったけどー』
どうも彼らが出かけた後にグルターレ商会の方に行った風の精霊たちの方が先に戻ってきたのが、悔しかったらしい。
「寄り道の話は後で聞くから、まずはガズゥたちのことを教えてよ」
コーヒーの入ったマグを片手に椅子に座ると、テーブルの上や、私の肩のあたりに集まりだす風の精霊たち。
『そうだ、そうだ』
『ガズゥたちな』
『はくろうぞくのさとにはついているぞ』
「ほっ、よかった。皆は無事なの?」
『ガズゥたちはげんきだよ。いっしょにいったぼうけんしゃたちは、とちゅうでわかれたみたい』
「え、なんで?」
『んー? たいりょくぶそく?』
『ひとぞくのがもたなかったねー』
『ふたりのじゅうじんも、だめねー』
『ネドリのいとこだけが、ついていけてたー』
なかなか過酷な旅程だったのだろうか。
ビャクヤたちも一緒だし、彼らのペースで向かっていたとしたら、ついていけないというのもわかる気がする。
「成人の儀式って、どうなった?」
『うーん? ぎしきはやってない?』
『さかもりばっか』
『ガズゥのまわりは、メスばっか』
「え」
『ガズゥはすごくいやそうなかおしてたけどね。ニシシシ』
風の精霊たちが、悪そうな顔で笑っている。
――まさかのハニートラップ? 子供のガズゥに何してくれちゃってんの!?
思わず、ムッとなる私。
そこでガズゥが気になる子がいるならまだしも、ガズゥが嫌がるようなことをするなら、話は別だ。
そもそも、成人の儀式を受けるために行ったのに、それを受けさせてない現状に、里の人たちがガズゥを里に留まらせようとしている意思が伝わるというものだ。
「ネドリさんはどうなのよ?」
『ネドリもおなじよー』
『メスたちがむらがってて、いやそう』
『さけにやばそうなのいれてるメスがいたから、ハゲにしておいたー』
『あれはうけたー』
『キャハハハハ』
ご機嫌に笑う精霊たち。
ハゲにされてしまった女性を少しだけ気の毒に思うものの、自業自得である。
それにしても、あんまりにも酷いようなら、本気でエイデンに連れ戻してもらったほうがいいかもしれない。
「あ、そうだ。ビャクヤたちは?」
ビャクヤと男の子チームも同行しているはずで、彼らは里にいるというフェンリルに会いに行ったのだ。
『ビャクヤたちはねぇ、せんだいのともめてる?』
「せんだい……先代のフェンリルと揉めてるの?」
『うん、なんかー、あいさつはしたらしいんだけどー、ビャクヤたちがかえるっていったらー』
『じぶんもいくっていいだしたんだって』
なんですとー。