第791話 風の精霊が調べてきた(グルターレ商会)
飛んで行った二人を見送る私の肩には、風の精霊たちが密集して座って、ぼそぼそと話している。
『チョロいね』
『チョロすぎ』
『あんたたち、私のこと忘れてるでしょ!』
シャーッと歯を剥くマリンだけど、子猫状態では可愛いだけ。風の精霊もクスクス笑って相手にしていない。
「まぁ、まぁ。それよりも、君たちはどっちに行ってきたの?」
『わたしたちはエルフのところよ』
『そうそう。エルフ』
どうも彼らが先に戻ってきたところをみると、グルターレ商会のほうが近い場所にいたようだ。
『エルフたちは、みなみのくにのさかいについたところだったわ』
『なんか、もめてたぞ』
『みなみのやつら、いやなかんじー』
『ついたっていうかー、もどってきたかんじー?』
『そうそう。にもつをごういんにとられそうだった』
『もどれるのかねー?』
『あいつら、やばそー』
『エルフだもの、なんとかするでしょ』
「え? え? どういうこと?」
わちゃわちゃと話す精霊たちの言葉をなんとか聞き取ってわかったのは、コントリア王国との国境で、南の隣国の衛兵ともめていたらしい、ということと、そこで荷物を奪われそうになったということ。
――奪われるって、何?
まさか密輸みたいなことでもしでかしたか、と思ったけれど、そんな物があったら腹黒カスティロスさんだったらマジックバッグにでも仕舞っているだろう。実際にやっていそうだし。
普通に馬車に積んでいた荷物を奪われそうになったということだろうか。
国境の衛兵が商人の荷物を奪うとか、随分と物騒な話だ。
風の精霊は『なんとかするでしょ』とは言うけれど、護衛がついていても、相手が国家権力を嵩に懸かってきたら、さすがのカスティロスさんでも、まずいんじゃないんだろうか。
若干、心配になっていると。
『それにしても、みなみはくさいのよー』
『そうそう、くさいー』
『あれはのろい?』
『くにじゅうが、なんかにおうんだ』
風の精霊たちがそろって顔を顰めている。呪いのニオイって、嗅ぎたくはないけど、気にはなる。
『そうそう、おなじかぜのなかまたちをみつけたけれど、きえかけてたから、つれてきたー』
そう言って風の精霊たちは小さな手のひらに、小さな光の玉を手にしていた。
光の玉、というのも厳しいくらい薄っすらと存在しているのがわかる程度の光だ。まさに消えかけている感じ。
「ちょ、ちょっと大丈夫なの?!」
『サツキ、だいじょうぶよ』
『これでも、ここにきて、だいぶもどったんだ』
風の精霊たちは悲しそうな顔で朧に光る玉を見つめている。
『しばらく、サツキのところにいれば、すこしはもどるのよー』
『サツキのてのひら、かしてー』
「なんで?」
『いいから、いいから』
精霊に言われた通りに右手を差し出すと、コロリと光の玉が落ちてくる。
「え、軽っ、いや、重さがない?」
『わたしたちくらいにならないと、サツキでもおもさはかんじないのよー』
クスクスと笑う人型の精霊たち。
確かに肩に乗っている時には、小さなぬいぐるみがのってるかなと思う程度の重さを感じることができたりするのだ。
『ほら、みてみて~』
言われて光の玉を見ていると、徐々に光の玉の輪郭が見えてきた。
――異世界、凄い。
改めて感動して、おお~、と思って見つめているうちに、光の玉がふわりふわりと浮き上がり出した。