第789話 ジジババと噂話(3)
グルターレ商会の護衛の冒険者、というと、ドゴールさんのことだろう。王都で会った時も、マグノリアさんとなんだかいい感じに見えた。
「人族のリーダーかい?」
「そうそう」
「いいんじゃないかい? マグノリアだって、まだ若いんだ」
「いくつくらいだ?」
「確か33、4じゃなかったかい?」
33、4で15、6の息子がいるって、どんだけ若い頃に結婚したんだよ(遠い目)、と思う。
その年齢を聞いて、こちらじゃ、今度31歳になる私にもガズゥたちくらいの子がいてもおかしくないんだよなぁ、と思ってしまう。
実際にはいないし、いなくても周りにこれだけのちびっ子たちがいれば、お腹いっぱいではあるのだが。
「でも、結婚したら、村から出ていくことになるんじゃないかい?」
ぽそりと、ババの一人が呟くと、皆、言葉が出なくなる。
マグノリアさん一家は、すっかり村に馴染んでいる。ザックスくんは獣人たちに時々ダンジョンに連れていってもらうくらいだし、フェリシアちゃんは、ママ軍団と一緒に赤ん坊の世話の手伝いもしているのだ。
彼らがいなくなったら、それはそれで寂しいと思う。
「まぁ、まだ結婚するかどうかなんて、わからんしな」
「そうだな」
「リーダーが振られるに一票!」
「わしもだ!」
「それよりも、グルターレ商会だよ」
「ああ、確か、王都で会った時に、南に行くって言ってたような」
私がそう言うと、ジジババたちは一様に心配そうな顔になる。彼らも南の国とのきな臭い噂を聞いているのだろう。
「サツキ様たちが王都にいた時と言ったら、もう一月くらい前かね?」
「商会が南のどの国まで行くかにもよるが、年内に戻ってこれるのかね? サツキ様」
「うーん、どうかなぁ」
さすがに、私もわからないので、チラリとその辺を飛んでいた風の精霊に目を向ける。
『うん? なーに?』
「グルターレ商会が今、どの辺にいるかなんて、わかったりする?」
『んー、すぐにはむりかなぁ。ちょっと、じかんをくれれば、わかるとおもう~』
「そっか。じゃあ、あとで教えてくれると助かるわ」
『そう? サツキが《《たすかる》》の? じゃあ、すぐにしらべてくるわ!』
「え?」
いきなりやる気になった風の精霊が、ピューンとドッグランを飛び出して行くと、その後を同じような風の精霊たちが追いかけていく。
「え、えぇぇぇ?」
思わず声をあげる私に、ジジババたちが驚いた顔を向ける。
「サツキ様、どうしました」
「いや、あのぉ、風の精霊に商会がどこにいるかわかるか聞いたら、調べてくると言って飛んで行ったんですけど……」
「けど?」
「なんか、すごい団体で飛んでったので……大丈夫かなぁ、と」
「ああ……」
いつもの精霊の暴走が頭に浮かび、ジジババたちも苦笑いを浮かべる。
「だったら、ついでにガズゥたちのことも頼めばよかった」
『なーに、それならわたしたちがいってくるわよ?』
『さっきのに、のりおくれちゃったから』
『よし、おいらたちは、ガズゥのとこだね』
『いぇーい!』
「……えぇぇぇ」
私のぼそっと言った呟きに、精霊たちは大乗り気で……また団体で飛んで行った。
――この山には、どれだけの精霊たちが集まってんだろう(遠い目)
思わず「あははは」と空笑いをする私なのであった。