第786話 オババの家にて
ケイドンの街から無事に帰ってきた私たち。
薬師組や冒険者組は散々だったけれど、マティーたちはケイドンの農場主のゲイリーさんとの関係もあったおかげか、村の皆が頼まれていた物を、ちゃんと買って帰れた。物によっては安くしてくれたり、おまけをくれたりと、ゲイリー様様だったらしい。
今後もマティーたちに、ケイドンの街までの買い出しをお願いしても大丈夫そうだ。
ただマークは薬師ギルドとの関係もあるので、護衛として同行するのは厳しいかもしれない。でも、獣人たちに変化の魔道具を渡せば、なんとかなるかな、と思ってはいる。
むしろ、問題は薬師見習いのベシーとリンダだ。
「ふーむ。参ったねぇ」
私たちは今、オババの家でお茶を飲みながら相談中。
お茶をいれてくれたのはベシー。オババ特製の薬草茶。烏龍茶のような独特の風味がクセになる。
一応、相場くらいの値段で買取をしてもらえたようで、オババがうんうん頷いている。
あの場であれ以上やらかしてたら、エイデンが建物ごと破壊してそうだ。
「人族の薬師ギルドのほうが、この子たちのためにはいいと思ったんだけどねぇ」
オババが、ふぅと大きくため息をつく。
「そうねぇ。でも、あそこはブラックっぽいし」
「ぶらっく?」
「あ、えーと、私の国で従業員を劣悪な環境で酷使するところのことを『ブラック』って言うのよ」
「ほー」
ベシーとリンダも目を丸くしながら感心している。
「ケイドンの薬師ギルドは、まさにそんな感じだったから、次に行ったら二人とも確実に囲われそうだよね」
「……あの奥の部屋で働いてた人たち、すごく疲れてそうだったよね」
「うん、目の下のクマが酷かった」
「私たちが入ってきたのにも気付かなかったくらいだもんね」
「あ、でも、一人だけ私たちのこと睨んでる女の人がいた」
「そう? 私は気付かなかったけど」
「ベシーはポーションづくりに集中してたからね。私は気になって周り見てたから」
「だから主任さんが怒ってたのね」
ベシーたちではなく、その女性スタッフの人に怒っていたらしい。
スタッフの中では比較的若かった女性らしいけど、それでもベシーたちからみれば、随分と年上だったそうだ。
――もしかして、若い女の子たちが入ってきたから、とかいう理由じゃないよねぇ。
ありえそうなので、思わず呆れてしまう。
「そんな面倒なところには、お前さんたちを行かせるわけにはいかないねぇ」
「そうそう。それにエイデンから聞いたんだけど」
帰りの軽トラの中で、コントリア王国と南の国との間が、ゴタゴタしているらしく、きな臭い噂があるらしい。
だから余計にコントリア王国の薬師ギルドは勧めない、とのことだった。
「そうなんですか……じゃあ、獣王国のギルドのほうに納品しに行く方がいいかもしれないねぇ」
オババは少しだけ心配そうな顔をしながら、ベシーたち二人に目を向ける。
「獣王国ですか!」
「え、行ってみたいかも」
二人はオババにキラキラと目を輝かせながら、身を乗り出している。
「フフフ、まずは納品できるような薬を用意しないとね」
「はーい!」
「私、薬草の在庫確認する!」
二人の賑やかな声が、オババの家の中に響いた。