<精霊座談会>
空には光輝く満月、星がキラキラと瞬いている。
人々はすでにベッドに入って眠りについている時間。
五月のログハウスの前の東屋では、様々な精霊たちが集まりだしている。
小さな光の玉の状態の精霊もいれば、しっかり人型をとっている精霊もいる。
その中で一番大柄なのは、緩いウェーブがかった緑の長い髪に、月桂樹の冠をかぶり、白いローブを着ている姿の、土の精霊王だ。普通に椅子に座り、お茶まで飲んでいる。
『ようやく、めんどうなれんちゅうとのあれやこれやがおちついたとおもったのに』
『さつきは、よくよく、めんどうごとにまきこまれるわねぇ』
光の精霊と風と水の精霊が呆れたように言う。
彼らが言っているのはケイドンの街での出来事だ。
『まぁ、ぼくたちがいるからぁ』
『たいしたことないけどぉ』
自慢げに言うのは風の精霊。
『めんどうごとのほうが、いやがるようにしてやるだけさぁ』
土の精霊がニシシと悪そうな顔で嗤う。
『それよりも、せいれいおうさま』
心配そうな顔で見上げるのは別の土の精霊。
『みなみのくにともめてるって、エイデンがいってたけど』
『だいじょうぶ?』
『だいじょうぶ?』
他の精霊たちも不安そうに飛び交っている。
「そうだねぇ。この土地は五月がいるし、結界も強固だから、悪い奴らは入って来れないだろうけれど、もしかしたら、多くの人間が逃れてくるかもしれないねぇ」
『みなみってさー、マカレナたち(牛飼い)がいたところでしょ?』
『そうだったねー』
『あのこたちについてきてたこは?』
『こ、ここに……』
マカレナたちが五月のもとに来た時には、誰も気づかないくらいに小さな小さな光の玉だった土の精霊。今では……土の精霊の中でも一番おデブになっていた。
『みなみのくにって、どうなの?』
『どうなの?』
『ど、どうっていわれても、マカレナたちといどうしてたときは、いしきをたもつだけでせいいっぱいで』
『えー、なんでー?』
他の精霊たちに囲まれて困った顔になる。
「それは、南の国々のそばに、かつてエイデンに滅ぼされた国があったからだろう」
『エイデン!』
『エイデンか!』
『エイデンねぇ……』
皆、腕を組んでため息をつく。
「あの国の跡地は、砂漠となっている。その上、いまだに濃い瘴気のために、人が住めない状態だ。私でも、あの土地に行きたいとは思わないよ」
『せいれいおうさまでも?』
『エイデーン!』
コクリとお茶を飲む土の精霊王は、少し悲し気な目で精霊たちを見つめる。
「でも、エイデンの気持ちもわかるのだよ。お前たちも五月が冤罪で酷い辱めを受けながら殺されたら、我慢などできないだろう?」
精霊王の言葉に、精霊たちは抑えきれない怒りが沸き上がった。
『なんだとー!』
『ゆるさん! ゆるさん! ゆるさん!』
『エイデン、よくやった!』
精霊たちがわきゃわきゃと騒いでいると、バタンッとログハウスのドアが開く。
「な、何事!?」
パジャマ姿の五月が、慌てて部屋から出てきたのだ。
『キャー!』
『さつきだー!』
『さつき~』
先ほどまで怒っていた精霊たちが嬉しそうに五月に抱きついて、体中が精霊だらけになる。
「ちょ、ちょっと、どうしたのよっ!?」
五月が精霊たちに囲まれている間に、土の精霊王はそっとその場を立ち去った。
――南の国には、あの亡国の血がいまだに流れている。
五月の山の中を、厳しい顔で歩く土の精霊王。
――二度と、あれらに害させないためにも、他の連中とも、話をしておかねばなるまいな。
白い月の光に照らされた精霊王の姿は、スーッと空気の中へととけていった。