第782話 ベシーたちを奪還する
カウンターで待たされること数分。
すぐそこの部屋なはずなのに、随分と待たされている気がするのは、私がイラついているせいだろうか。
「まだなのか」
同じようにイラついているエイデンから、何やら黒い靄が出ているように見える。
「どーどー、落ち着いて」
私以上にヤバそうな相手を見ると、私のほうも落ち着いてくる。
「お、お待たせしましたっ。あの、あと3本、3本ポーションが出来ましたら、終わりですので」
汗を拭きながら受付の男の人が戻ってきて、ぺこぺこと頭を下げる。
「じゃあ、彼女たちは薬師ギルドに登録は問題ないということでいいですか」
「は、はい」
「よかった。ところで、薬師ギルドは冒険者ギルドのようなギルドカードはないんですか?」
「ご、ございます。登録するための書類が必要で」
「じゃあ、書けるだけ書きます。エイデン、お願いしてもいい?」
「え、いや、ご本人に書いていただかないと」
「あ゛?」
思わず低い声が出ると、男の人はびくりとなる。
「い、いえ」
「冒険者ギルドでは代筆もしてるって聞いたけど。こっちはダメなの?中身を最終的に彼女たちに確認してもらえばいいでしょ?」
「は、はい」
「彼女たち、ちゃんと文字読めるからね」
「!」
「まさか、読めないと思って別の書類とか用意しようなんて、思ってないわよね?」
「は、はひっ、滅相もない!」
「……嘘をつくなよ。俺にはわかるからな」
エイデンの威圧で、真っ白な顔色になる男の人。
カタカタと身体を震わせながら、登録用の書類を2枚差し出す。
「……」
エイデンは書面の内容を確認し、何か所かに書き込みを加えている。私は相変わらず読めないし書けないから、何を書いたかもわからない。
私の方こそ、こちらの書類には要注意だな、と内心、苦笑いだ。
「ほら、これをベシーとリンダに確認してもらえ」
「は、はひっ」
ドタバタと奥の部屋へと戻って行く男の人。
「あれにはなんて書いてあったの?」
「うん? 名前と出身地、あと作成できる薬の種類かな。最低限、あいつらが作れるものは俺でもわかるからな」
「ふーん」
「あれで、初級薬師の登録はできるはずだ」
「そうか。よかった」
すぐに戻ってきた受付の男の人が、2枚の銀色のカードを渡してきた。金属製なのか、ちょっと重みがある。
「こ、これが初級薬師のギルドカードになります。作成できる薬の種類が増えるごとに、再申請いただければ、中級、上級、特級と資格があがります。薬の納品時には、必ずギルドカードを持ってくるようお伝えください」
早口でそう言うと、またすぐに部屋の中へと戻っていく。
カードの裏と表を見比べながら、私はエイデンに問いかける。
「これって、ケイドンの薬師ギルドの所属ってことになるのかしら」
「いや、ただ登録したのがケイドンというだけで、特に所属とかはないはずだ。ただ、より多く納品した土地のほうが、買取金額が変わってくるみたいだな」
「そうなんだ」
でも、ここの薬師ギルドはやめさせたほうがいいかもしれない。
そうなると獣王国のケセラノの街が次に村から近い街になるんだけれど、人族の薬師はどういう扱いになるんだろう。
そんなことを悩んでいるうちに、ベシーとリンダ、それにマークの3人が戻ってきた。
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