第781話 薬師ギルドに戻ってきた
私たちが薬師ギルドの中に入ると、ちらほら人の姿があった。
受付カウンターは先ほどよりも人が増えた。私たちの対応をしてくれた人は、今はお年寄りの対応をしているらしい。そこでは薬の売買もできるようだ。
それよりも、ベシーたちの護衛として残ったマークはどこにいるんだろうか。
「……奥の部屋にマークがいるな」
エイデンがボソリと呟く。
私にはわからないけれど、奥の部屋で何やら作業をしているらしい。
どういうことか、と思ってカウンターのほうを見ると、対応が終わったらしい受付の男性が、私たちを見てギョッとした顔になった。
「あの、残った男の子は」
「す、すみません。ひ、人手が足りなくて」
焦りながら彼が言うには、なんとマークまで中に入って薬草の分別をさせられているらしい。
今までは大丈夫だったのか、と他人事ながら心配になる。
いったい何が起きてそうなってるのか、と聞いてみたら、冒険者ギルドから納品された薬草を分別する担当がここ数日休みをとっていて、ちゃんと分けられていないのだとか。
その上、最近、南の小国家連合との雲行きが怪しいらしく、王都の本部から各地の薬師ギルドに、ポーションの納品の指示があったらしい。
そんなことになっているとは知らなかった。エイデンに目を向けると、小さく頷いているから、彼も知っていたようだ。
それよりも。
「マークでも大丈夫だったんです?」
彼は薬師でもなんでもないのだけれど。
「ええ! 薬草採取は得意と言っていたので、お願いしてみたら、彼の手際のいいことに驚きました!」
「はぁ……あの、あとどれくらいかかります?」
「え、あ、えーと」
受付の人は奥の部屋のほうをチラチラみながらも、はっきりしない。
「そろそろ買い出しに行ってる仲間も戻ってくると思うので、戻り次第街を出たいんですけど」
「えっ!」
「薬師の登録って、まだやってないんです?」
私が段々と渋い顔になっていくと、受付の男性がアワアワしだす。
「ちょ、ちょーっと待ってくださいねっ!」
受付の男の人は奥の部屋へと駆け込んでいく。
他のスタッフは別のお客さんに対応していて、私たちは放置状態。
『さつき~』
こっそりと私の耳元で話す風の精霊。
「なに?」
『なんかー、ベシーとリンダ、ぽーしょんのできがよかったみたいでー、うちではたらかないかってー、いわれてるー』
「は?」
『ベシーたちはことわってるのにー』
『しつこいおとこー』
『マークはあいだにいれさせないためにー、さぎょうさせてるみたいー』
「なんですって!」
思わず、大きな声になる。
「……壊すか、ここ」
ムスッとしたエイデンが物騒なことを言いだす。
いや、私も同じくらいの気持ちはあるけれど、さすがにそこまではしない。
「まずは、先ほどの男の人を待ちましょ。その人の対応次第で……精霊さんたちにお願いしちゃうかも」
『まかせろー!』
『やるきじゅうぶんー!』
「……おいおい、五月、大丈夫か?」
今更、冗談だよー、とは言えない雰囲気。自分で言っといてなんだけれど。
「……あちらが対応を間違えなければいい話だし」
少し冷や汗をかきつつ、受付の男の人を待つ私たちであった。
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