第780話 エイデン、ケイドンの冒険者ギルドを見限る
エイデンの威圧に青ざめながらも、気絶はしなかったアイバンさん。
「わ、わかった。わかったから、威圧を抑えてくれっ」
悲鳴をあげるアイバンさんが可哀想で、私はエイデンの服の裾を引っ張ると、私のほうへ優しい顔を向ける。
そのおかげなのか、威圧から逃れたアイバンさんが大きなため息をつく。
「はぁ、はぁ、はぁ……お前、なんなんだよ」
ボソリとアイバンさんが呟きながらエイデンへと目を向けるけど、エイデンはすっかり無視。
「なんだ五月」
「いや、その、別にギルドカードを作るためだけに入ってもらったのに、Aランクになってたから、やる気があるのかと思ってたんだけど……そうでもなかった?」
「俺も気が付いたら、ランクが上がってて驚いたくらいなんだ」
「そうなの?」
基本、魔物の買取にしか来ていなかったエイデン。
どうもギルド側のほうが、エイデンが持ち込む魔物が高ランクな物が多かったこともあり、試験不要でランクを飛ばしたらしい。
その上、時々、盗賊に襲われてた商人を助けたり、その護衛をしたりということもあったそうで、それを評価されたのと、複数の街のギルドマスターが推薦までしてくれたおかげ(?)で、あっという間にAランクになっていたらしい。
――自業自得じゃないの? エイデン。
それでも。
「まぁ、エイデンが望んでいないんだったら、無理にランクを上げなくてもいいかなー、って思うんだけど」
「だよなぁ!」
「じょ、嬢ちゃん、そりゃ、ないぞ!」
――いやいや、『嬢ちゃん』という年でもないから。
「でも、本人がやる気がないんだし」
「名誉あるSランクだぞ!?」
アイバンさんには価値があるんだろうけど、古龍のエイデンにしてみたら、価値なんて欠片もないだろう。
「わかった」
エイデンが憮然とした顔で言う。
「そうか! わかってくれたか!」
アイバンさんが嬉しそうに立ち上がる。
「ああ。二度とケイドンのギルドには寄らない。他の街のギルドに魔物を卸すことにする」
「なにー!」
「さぁ、五月、行くぞ」
「え、あ、うん。あ、ごちそうさまでした」
エイデンの返事に固まったアイバンさんを残して、私たちは部屋を出る。
階段を降りると、受付カウンターの女性たちが期待の眼差しをこちらに向けてきたけれど、エイデンは受付には行かず、魔物の解体作業の部屋へ行く。
「おい、バース!」
「あ? エイデンか。まだ解体は終わらんぞ」
「構わない。金は俺の口座のほうに入れといてくれればいい」
「わかった」
「それと、これで解体の依頼は最後だ。面倒な魔物が多くて悪かったな」
「へ? 最後?」
「じゃあな」
片手を振って出て行くエイデン。私はペコリとバースさんに会釈をすると後を追いかける。
「ど、どういうことだぁぁぁぁ!」
背後からバースさんの怒鳴り声が聞こえたけれど、エイデンは気にしていないようだ。
「あっ」
受付カウンターも通り過ぎると、カウンターの女性たちが声をかけたそうだったけれど、これもスルー。
ギルドのドアを開けて外に出る。
「さて、薬師ギルドに戻ってみるか」
「エイデン、よかったの?」
「ああ? ただの身分証のために、俺が気にすることでもないだろう?」
元はスノーの従魔登録がきっかけだったし。今ではスノーを連れ歩いて街にくることもないのを考えると、あれ、エイデンのギルドカードって意味なかった? と思えてくる。
「さぁ、様子見に行こう」
「わかった」
私は颯爽と歩いて行くエイデンの後を、慌てて追いかけるのであった。