第778話 冒険者ギルドのギルマスと遭遇
解体作業と報酬の計算に少し時間がかかると言われ、いったん外に出ようか、と話していると、ドタドタと足音が聞こえてきた。
「エイデンが来てるって!?」
私たちの目の前に大柄な四十代くらいの男性が現れた。
黒味の強い焦げ茶のモジャモジャの短い髪に、鼻に一本傷がついていて、何かに切られた跡なんだろうか。鼻が赤いのは日焼けなのか、酒焼けなのか。この時期だったら、酒焼けか。
「……チッ」
「おい、チッ、ってなんだよ、チッ、ってよ」
「五月、行こう」
「おい、無視すんなよ。なぁ、嬢ちゃんもそう思うだろ?」
いきなり私に振ってきた。
「え」
「ってか、エイデンのコレか?」
ニヤニヤしながら小指を立てる。
――どこのオヤジも同じことしかしないのかっ!
思わず半目になって、オッサン(もうオッサン扱いだ)に目を向ける。
『なになに、さつき、こいつ、けす?』
『けしちゃう?』
私の不機嫌が伝わったみたいで、精霊たちが嬉しそうな声をあげる。
「やめて、色々めんどくさいから」
こそっと言うと、えー、と残念そうに飛んで行く。
「あ? なんだ?」
「いえなんでも」
私の声は届かなかったようで、オッサンはキョトンとした顔。可愛くはない。
「五月が望むなら、いつでも、こいつを消してやるぞ?」
真面目な顔で言うエイデンに、オッサンは顔が真っ青になる。
「いやいや、ちょっと、どうしてそんな話になるんだよ」
「お前が五月の機嫌を悪くするからだろ」
「え、俺、何かした?」
「いえ、だいじょうぶです(棒読み)。エイデン、さっさと行こうか」
「いやいやいや、待って待って! エイデンと話をさせて!」
オッサンに縋られそうになって、その前にエイデンが足蹴にした。
「ぐえっ」
「五月に近寄るな」
さすがにエイデンも加減はしたのか、オッサンがよろよろとカウンターに身体をあずけるだけですんでいる。
本気だったら……想像してはいけない。
「ほんとに、ほんとに話だけでもさせて下さい、お願いしますー!」
今度は土下座までしてきたオッサンに、私もドン引きだ。
「……エイデン、あなた何したの?」
「何もしてない」
「何もしてなくて、コレ?」
コソコソと話をしていると「ああ、ここにいた~」と、呆れたような男性の声が聞こえてきた。
解体作業の部屋の入口に入ってきたのは、三十代のほっそりした男性。
「お、メーガン! お前もやれ!」
「え?」
「早くっ!」
状況もわからず土下座させられそうになる男性を見て、さすがに可哀想になる私。
「……エイデン、話だけ聞きに行く?」
「……(だいたい予想はつくが)五月がいいなら」
「ありがたいっ!」
オッサンはすぐさま立ち上がり、土下座させられそうになった男性はポッカ―ンとした顔。
「シンシア! 部屋の準備! ブレンダ! ハーディーの店行ってアレ、買ってこい!」
「え、ギルマス! 私たちの分も買っていい?」
カウンターにいたブレンダと呼ばれた女の子が期待に満ちた顔で、こちらを覗いている。
「いい、いい。さっさと行ってこい!」
「やったー!」
アレ、なるものが何なのかわからないが、よほど嬉しいものなのか、女の子たちの嬉しそうな歓声が聞こえる。
「……ギルマス?」
「ああ、あいつはこの冒険者ギルドのギルドマスターのアイバンだよ」
エイデンが苦笑いを浮かべながら教えてくれた。