第777話 冒険者ギルド 解体カウンターにて
ベシーとリンダがどれくらいで作業が終わるのかはわからないので、私とエイデンは薬師ギルドから出た。
マークは彼女たちの護衛も兼ねて、終わるまで待つとのこと。
さすがに帰れないような時間まで作業させるようだったら、クレームを入れるつもりだ。
「さて、私たちはどうしようか」
「冒険者ギルドに寄ってもいいか?」
「いいけど。ああ、魔物の買取?」
「ああ」
ダンジョンで籠ってゲットしたのはお肉以外もあったようだ。
オババさんやドワーフのヘンリックさんたちや、ギャジー翁たち魔道具師たちが使えそうな素材は、買取できる物は買取してもらっているらしい。
それ以外の物があればギルドで買取をお願いするのだそうだ。
冒険者ギルドの扉を開けると、一気に視線がエイデンに向けられる。
私は彼の背後にいるから、誰も気付いていない模様。強面の人々が多いので、彼らに絡まれたくはない私は、大人しくついていくのみ。
エイデンは受付カウンターに行かないで、その奥のほうへと歩いて行く。
生臭い臭いが漂ってくる。解体作業をする場所へと向かっているようだ。突きあたりのカウンターには若い男性がいたのだけれど。
「エイデンの旦那!」
カウンターの奥から声をかけてきたのは、がっしりした体躯の四十代くらいの男性。背の高さはエイデンと変わらないくらいと、かなり大きい。
革製のエプロンは、血の汚れがついている。まさに作業の途中にでも抜け出してきたんだろうか。
「おう、バース」
「今日こそは、いい素材を持ってきてくれたんだろうな!」
「お前が気に入るような物が残ってればな」
「カーッ! ひでぇな、エイデンの旦那よぉ」
ブツブツ文句を言いながらも、カウンターに、どんどんと載せられる魔物たちを選別している。
魔物の多くは、私が見たことがないような、両生類っぽいグロテスクな姿の物が多い。
よく叫ばなかった、と自分を褒めたい。
「ほおほおほ。(いったい、どこから、こんな魔物を狩ってくるのやら)」
「文句があるなら、持ち帰るぞ。他所に持って行ってもいいんだ」
「いやいや、俺はなんも言ってないっすよ」
慌てたように言うバースさん。
きっと小声で呟いたつもりだったのが、エイデンの耳には届いたのかもしれない。それで断られたんだったら、自業自得というものだろう。
私は彼らのやりとりを、ただ見ていただけなのだが。
「おや、そっちの嬢ちゃんも、解体依頼かい」
「へ?」
まさかの冒険者と勘違いされた。その上、『嬢ちゃん』と呼ばれるとは。
「い、いえ。私はエイデンの」
「おー! エイデンの旦那のコレかい!」
バースさんが小指をたててニヤニヤしている。エイデンはまんざらでもなさそうな顔をしている。
こちらでも、恋人をあらわす表現が同じなのか、と一瞬感心したけれど。
――いやいやいや、違うし! そうじゃないし!
「ちょ、ちょっとエイデン、否定してよ!」
「五月~」
「違います、違いますからね?」
「へぇ、嬢ちゃんはサチュキ? というのか。まったく、エイデンの旦那もすみにおけねぇな」
エイデンは情けない声で縋ってくるけど、ここはちゃんと否定しないとダメだろう。
なのに、バースさんは私の声など聞く気はないようでカカカッと笑って、魔物に目を向ける。
「よーし、こいつは、ちょいと色をつけさせてもらおうか。おい、持ってけ!」
後ろに待機していた解体作業をするおじさんたちに、魔物を投げていく。
受け取るたびに、おじさんたちからニヤニヤした目を向けられて、なんだか居たたまれない。
しばらく、ケイドンの冒険者ギルドに来るのは止めておこう、と思った私であった(遠い目)。