第775話 薬師ギルドへ行こう
林のそばで野営をした翌日は、朝早めにケイドンの街へと向かった。
ここからは私も幌馬車に乗らせてもらう。さすがに軽トラで街に乗り込む勇気はない。軽トラはちゃんとタブレットの『収納』にしまいこんである。
早い時間帯のおかげか、ケイドンの街の中にはスムーズに入れた。
「それじゃ、俺たちは馬車を置いてから、市場のほうに行ってきます」
幌馬車から薬師見習いのベシーとリンダと私が降りると、御者台に座っていたマティーが声をかけてきた。
「どこに置きに行くんだ?」
「ゲイリーさんの知り合いのとこだよ」
「前にお世話になったことがあるんだ。それに司祭様から、これも預かってるし」
マークがマティーに確認すると、荷台に乗っていたダリルが封筒を手にヒラヒラさせる。
「じゃあ、俺はベシーたちと一緒に行くよ」
「マティーたちには、俺とラルルがついてく」
「ケニーさん、お願いします!」
帝国などの面倒そうな国にも行ったことのあるケニーとラルルであれば、ちょっとしたトラブルもなんとかしてくれるだろう(力技ではないことを祈る)。
保護者な立場の私とエイデンは、彼らの様子を見ているだけで、口出しはしない。これから先、彼らだけで街にやってきて対応しなきゃいけなくなるのだ。
幌馬車を見送った私たちは、周囲を見回す。朝早めといっても、人々は動き出している。
「さてと、ベシーとリンダは薬師ギルドだったよな」
「はいっ」
「場所ってどこにあるのかな」
「俺もかなり小さな建物だったのは覚えてるんだけどな」
マークの言葉に元気に返事をしたリンダとは違い、ベシーは少し自信がなさそうな感じだ。
「薬の匂いのするところに行けばよかろう」
エイデンの言葉に、みんながエイデンに目を向ける。
「なんだ」
「いや、私たち人間はそれほど嗅覚はよくないから、無理だと思うんだけど」
「あ」
私の言葉とマークたちの生温い視線に、エイデンも苦笑いを浮かべる。
「とりあえず、薬の匂いはあっちだ」
「信用してるからね?」
「任せろ」
エイデンを先頭に、私たちは薬師ギルドを目指して歩き始める。
迷いなく進むエイデンが向かう先は冒険者ギルドのある大きな通り。大きな看板を下げた建物がいくつか並ぶなか、見覚えのある看板は、まさに冒険者ギルド。すでに数人の人の出入りが見える。
「ここを右に曲がったところだな」
エイデンが冒険者ギルドよりもだいぶ手前で立ち止まる。
そこは少し細い路地になっていて、こんなところにギルドのような組織の建物があるんだろうか、と思ったら。
「あ、そうそう、こんな道だったかも」
マークが声をあげた。
「そういやぁ、前に一度だけ、冒険者ギルドからの薬草の納品を手伝った時に来たんだった」
「……こんな近くにあったのに、なんで覚えてないの?」
リンダに呆れられて、マークもえへへ、と笑って誤魔化す。
ここから先はマークが先頭に、ベシーとリンダ、そして私とエイデンがついていく。
「あった、あった。ここだよ」
小さな木製のドアの上に、黒っぽい板に文字が書かれている。たぶん『薬師ギルド』とでも書いてあるんだろう。
「さぁ、中に入ろう」
「うんっ」
「……うん」
マークに背中を押されるように、ベシーとリンダは木製のドアを開けた。