第773話 ピエランジェロ司祭と話をする
リンゴジャムを作った翌日。ようやく雨があがり、真っ青な空が広がっている。
午前中に家事を一通り終わらせた私は、村へ向かおうとスーパーカブのエンジンをかける。
山の中の道は多少のぬかるみはあったので、スピードをおさえて走らせる。こんなところで転んだら、みっともないこと、このうえない。
通りすがりの立ち枯れの拠点に目を向けると、すでに畑の収穫を終えていてすっからかん状態。
――家に戻る時に、何か植えていこう。
そのまま村までやってくると、スーパーカブのエンジン音に気付いたテオとマルが出迎えに現れた。
「サツキさま!」
「サツキさま~!」
「久しぶり~」
「どこいくの?」
「ん~、司祭様のとこ」
「だったら、いまなら、きょうかいだよ!」
そう言うと、テオとマルが教会へと知らせに走っていく。
私はスーパーカブをタブレットの『収納』にしまい、ピエランジェロ司祭のいる教会へと向かう。
その道すがら、村人たちから声をかけられる。皆、にこやかで幸せそうな様子に、私も笑顔になる。
「こんにちは~」
教会に入ると、教会の中は少し薄暗いが、テオとマルの賑やかな声が響いているせいか、寂しい感じはない。
「こんにちは。サツキ様」
出迎えてくれたのは、助祭のレキシーくん。
彼の腰のあたりに抱きついているテオとマルの他に、光の精霊たちも飛び交っていて、彼のまわりだけは妙に明るい。
――これ、彼らには見えてないんだよなぁ。
思わず、苦笑いを浮かべる私。
「あの、司祭様はいらっしゃいます?」
「司祭様でしたら、執務室にいらっしゃいます。お呼びしますか?」
「あ、ちょっと、ダリルくんたちの件で相談が」
「ああ、ケイドンの街への買い出しですね!」
「ええ」
少しお待ちください、と言って、レキシーくんは執務室へと入っていくと、すぐに戻ってきて、中へどうぞと案内された。
「サツキ様、お久しぶりです」
ピエランジェロ司祭がニコニコ笑顔を浮かべながら出迎えてくれた。
「すみません、天気が悪かったので、しばらく来られませんでした」
「いえいえ。それで、ダリルたちのことでしたね」
今回、ケイドンの街に買い出しに向かうのは、ダリル、レノ、マティーの3人の他、マークとベシーとリンダの孤児院組、それにちょうど村に戻ってきていたケニーとラルルの二人も同行してくれるらしい。二人は当然、変化の魔道具を使って行く。
できれば、私も同行してもらいたい、というのが、ピエランジェロ司祭の要望らしい。
あちこちの村や街に行っているケニーとラルルがいれば、大丈夫じゃないか、と思うのだけど、ピエランジェロ司祭は心配らしい。
「マークは冒険者ギルドがあるからわかるけど、ベシーは?」
「ベシーとリンダは、薬師ギルドに登録をさせようかと」
ベシーとリンダはオババのところで薬師見習いとして、手伝いをしていたのを思い出す。
「え、薬師にもギルドがあるんですか!?」
単純に冒険者とか商人くらいしか、ギルドがないと思っていた私。
こちらに三年以上住んでいるのに、不勉強だ。
「村の中だけであれば、オババさんがいますからね。問題はないとは思うのですが、先々、他の村や街に出ていくことも考えると」
「ベシーたちが村を出ていく……」
言われてみれば、彼女たちも大人になったら村を出ていく可能性もあったのだ。ずっと村にいるものだと思っていた。
「いえいえ、すぐに出ていくとかではないですよ? 彼女たちの可能性を広げるためにも、今のうちに登録しておいてあげたほうがよいかと思いましてね」
ピエランジェロ司祭の穏やかな声に、私も頷くしかなかった。