第771話 稲荷さんからの連絡事項
軽自動車の後部座席には、今日の買い出しで買った物が山積みになっている。荷物を載せるだけで、かなりの重労働になってしまった。
せっかくなので、お昼は久々にファミレスに寄ることにした。
最初はエクスデーロ公爵領で食べたお魚を思い出して、あちらで食べられなかったお刺身が食べたくなったのだけれど、メニューのカキフライの写真に負けてしまった。
料理がくるまでの間、スマホのチェックをする。
稲荷さんがわざわざ連絡をくれるくらいなのだから、スマホにも何かしらの連絡が来ているのではないか、と思ったのだ。
「ん~、特に問題ありそうなのはないなぁ」
目立ったものでいえば、前に勤めていた会社の同期から、二人目が産まれたという報告くらい。年に一度くらいしか連絡をとっていない数少ない友人だ。
実家関係からは、何の連絡もなくてホッとする。
――だったら、稲荷さんからの連絡って何なんだろう。
想像がつかなくて心配になってきた私は、せっかくのカキフライを味わう余裕もなく、さっさと食べてキャンプ場へと向かう。
平日のおかげで、キャンプ場の事務所の中はガランとしていた。受付にいた若い男性に声をかけて稲荷さんを呼んでもらう。
「あ、望月さん。来ていただけましたか」
「珍しくスマホに連絡が来ましたから……何事ですか」
「いや、ちょっと気になりましてね」
真剣な顔の稲荷さんに、少しだけ身構える私。
「望月さん、免許の更新って、大丈夫です?」
「は?」
「いえね。私の所に免許の更新ハガキが届いたものですから、望月さんは大丈夫なのかな、と思いまして」
稲荷さんの更新ハガキが届くということは、この時期が誕生日なんだな、と思うと不思議な感じだ。というか、ちゃんと免許の更新してるんだ、と感心してしまう。
私は稲荷さんの言葉に、自分の免許も確認する。
「あ、来年の誕生日で更新です」
「……望月さんの誕生日って確か1月じゃなかったですか」
「そうですね」
「うちのキャンプ場、冬季休業中ですけど、どうします?」
「あ」
稲荷さんの指摘で気が付いた。
1月は確実にトンネルは通れない。そもそも、更新ハガキが届いても手に入れることすら、無理だろう。
「え、え、どうしよう!?」
休業期間だけこちらに滞在するしかないかもと思ったら、エイデンの顔が浮かぶ。
1カ月以上も連絡がつかない状態で、エイデンが荒れないという保障はない。
「あー、やっぱり、考えてなかったですね」
「はい……」
参ったな、と頭を抱えていると。
「でしたら、うちから届けましょうか」
「うち?」
「……お忘れですか? エイデン温泉経由してうちからでしたら、こちらに来ることができますよ?」
「あっ! い、いいんですか!?」
稲荷さんの家といえばエルフの里にあって、そこからキャンプ場に通勤していたのを思い出す。
「構いませんよ。うちのがご迷惑かけてますし」
苦笑いを浮かべる稲荷さん。
最近はあまりないけれど、確かに稲荷さんの奥さんのレィティアさんには困らされたことがあったのは確かだ。
「あ、あははは。じゃ、じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」
「ハガキが届いたら、村のほうにお邪魔しますね」
「よろしくお願いします!」
それから稲荷さんに色々手土産を持たされて、あちらへと戻ることにした。
+ + + + + + + +
《五月の名前の裏設定》
五月の誕生月は1月。名前の『五月』とは、まったく関係ない。
彼女が産まれる前に、母親は流産していて、その赤ん坊が産まれる予定だったのが5月だった。
母親のほうが名前にこだわりをもっていて、そのまま、名前を流用されてしまい、父親は根負けした形。
五月自身、この名前になったのか不思議に思って小学生の頃に聞いたのだけれど、両親は本当の理由を教えてくれなかった(両親ともに五月が大きくなってきてからは、多少は後ろめたい気持ちがあった)。
父方の祖父母の家でお世話になるようになって、初めて教えてもらって、知った当時は、なんだそれ、と不快に思った五月だったけど、今はあまり気にしていない。むしろ、今では気に入っている。
姉がいたら『睦月』になってたかも?
近況ノート更新しました
『つぎラノ、応援ありがとうございました<(_ _)>』
https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/695723/blogkey/3408014/