第769話 美味しい秋(2)
ログハウスの敷地に飛び込んできたのはテオとマル、遅れて息を切らせた孤児院のエフィムとボルトの4人。年齢が近いせいか、この4人はいつも一緒にいるようだ。
「サツキさま~」
テオが元気に駆け寄ってきた。彼の背中には大きな背負い籠があり、そこからは大きなサツマイモらしきものが見える。
「イポモア~」
「かあちゃんがおすそわけだって~」
こちらのサツマイモ、イポモアを収穫したらしい。子供たちの頭くらいあるイポモアに、テオとマルはニコニコだ。
「ありがとう。エフィムくんたちは何を持ってきたの?」
エフィムとボルトの二人の背負い籠にも何やら入っているようだ。布を被せてあって中が見えない。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「落ち着いてからでいいよ」
「ん、ふ、ふぅ~」
二人は背負い籠を下ろして、なんとか息を整えようとしているが、獣人の二人のスピードについていくのは、普通の人の子供には大変だったろう。むしろ山盛りのイポモアの入った背負い籠を背負っているのに、ケロリと余裕のテオとマルが凄いのだろう。
ノワールとマリンがエフィムたちの籠の布をめくる。
「おお~、こっちはキノコか」
「これは何? 木の実?」
私も知らない木の実もあって、一つ一つテオたちが説明してくれる。
「メェェェ」
突然のセバスの鳴き声に振り向くと、薪オーブンから煙が出ている。
「あっ!」
焼き栗をやってたのを思い出して駆け寄ると……真っ黒な栗の残骸が。残念ながら全滅だ。
「ああ、失敗した……」
「わー、まっくろだ」
「すみ?」
子供たちもオーブンの中を覗き込んで言う言葉に、私もガックリ。
でも、まだ生栗は残っているし、もう一度焼けばいい。
「あ、イポモアも一緒に焼いちゃうか」
そう思った私は、テオたちにイポモアを洗いに行かせて、ログハウスに戻ってアルミホイルを取ってきた。
子供の頭ほどのイポモアをアルミホイルで巻くことを考えて、ストックしていた分も合わせて3本持ってくる。
実際、イポモアを2本も巻いたら使いかけていたアルミホイルはすぐに空っぽになってしまった。結局、人数分(8本。セバスも含む)を巻いたらなくなってしまった。
――これは早いところ、買い出しに行かないといけないかも。
キャンプ場のお休みが始まるのはもう少し先だけど、早めに買い出ししておいてもいいだろう。
今年はこちらでもお米が採れたけれど、ほぼ村人たちが消費するはずだ。
――うちは、あちらのお米で十分だしね。
薪オーブンにアルミホイルで巻いたイポモアを入れる。大きすぎて2本しか入れられなかった。
その間に、子供たちと一緒に栗に切り込みをいれる。テオは力の加減が難しいのか、2,3個、真っ二つにして、皆に笑われている。
バケツに入ってた栗は全て切り込みを入れ終えて、薪オーブンが空くのを待っている状態。まだアルミホイルに巻かれたイポモアもあるので、しばらくは焼けない。
「あっ」
いきなりエフィムが声をあげた。
「どうした?」
「しさいさまからたのまれてたのをわすれてた!」
「何を忘れてたの?」
「あの、ダリルにいちゃんたち、そろそろまちにかいだしにいかせたいんだって。それで、サツキさまにいっしょにいってもらえないかって」
「おお、なるほど」
ピエランジェロ司祭が認めるレベルにはなったということだろう。
「わかった。私はいつでもいいけど、ダリルたちはどうなんだろう?」
「ん~? わかんない。むらにもどったらきいてみる」
「よろしくね……あら、いい匂いがしてきたんじゃない?」
私はワクワクしながら、薪オーブンからアルミホイルに包まれたイポモアを取り出すのであった。