第768話 美味しい秋(1)
美味しい新米を食べた翌日。私はログハウスの敷地の下にある果樹園に来ている。
果樹園に植えてある木は、ブルーベリー、オリーブ、梨、桑、みかん、栗の6種類。ブルーベリーの木は紅葉している木もあって、華やかな雰囲気になっている。
今、実が生っているのは、オリーブ、みかん、栗の3種類。オリーブもみかんも、まだ熟しておらず、緑の実の状態だ。その中で、栗はほとんど落ちてしまっている。
「もう、ほとんど落ちちゃったみたいだね」
果樹園の中でも奥に植えてある一本の栗の木。
その栗の木の根本に、イガグリがあちこちに落ちている。すでに村の子供たちに頼んで拾って貰ってはいるものの、それは村へと持ち帰ってもらった。
私が食べる分を、と残っている栗を拾いにやってきたわけだ。
『これ、おとすかー?』
風の精霊たちが、まだ木に生っている栗を指さすので「お願い~」と声をかけると、わきゃわきゃと栗を落としていく。
私は私で、落ちている栗を見つけては、靴でイガを踏みながら栗を火ばさみで拾うと、バケツへといれていく。
これで栗は今年最後だろう。
――今年は焼き栗にして食べようかな。
亡くなった祖母は茹で栗にしてくれることが多かったけど、薪オーブンがあるんだし、せっかくなら焼いてみるのもいいだろう。
一通り拾い終えてみると、バケツ半分くらいになった。この程度だったら、持って戻れるくらいの重さだ。
バケツを持ってログハウスの敷地へと戻る。敷地の中の池でバケツに水をいれてザッと洗っていると。
『さつき~、このくり、むしいる~』
『これもいるね~』
『あ、これも~』
水の精霊や土の精霊が、ワラワラと集まって、虫食いの栗を教えてくれた。
「(げっ!)あ、ありがとねぇ」
精霊たちの言葉の通りに、虫食いの栗をよけていったら……半分にまで減ってしまった。それだけ、この栗が美味しいんだって思うことにする。
「うーん、虫食いの栗どうしようかな」
食べられないわけではないと思うけれど、食べたいとは思わない。
せっかくなら、植えて栗の苗木にしてみるのもありかもしれない。食用だけではなく、栗は木材としても使えると聞いたことがある。
うちの山にも似たような木があるのかもしれないけれど、今まで見たことがない。ハノエさんあたりに聞いたらわかるのかもしれないけれど、せっかくだったら美味しいとわかっている栗の木を植えてもいいんじゃなかろうか。
今は食欲のほうが勝っているので、とりあえず、虫食いの栗を避けるだけ避けておこう。タブレットの『収納』に保存してから、食べられる栗の入ったバケツを持って、ログハウスの前の東屋へ向かう。
薪オーブンに火をいれてから、一粒、一粒の水気を拭いてから、縦に切り込みをいれる。そうしないと破裂するらしいのだ。
「あとは天板にオーブンシートを敷いて、栗を並べて……よし」
さすがに全部を載せきることはできなかったので、載っている分だけオーブンの中へ。
焼き上がるまで待つつもりで、お茶をいれようとしたところに、家の中でお昼寝していたノワールたちが出てきた。
「いい匂いがする~」
「何、焼いてるの?」
「メェェェ」
とてとてと東屋にやってきて、まだオーブンにいれてない栗を手に、しげしげと見ているノワール。マリンも隣から覗き込んで、セバスは鼻をひくひくとさせている。
「今、焼いてるから、ちょっと待って」
「わかった」
「お茶飲む?」
「うん!」
「貰うわ~」
よっこいしょと二人が座ろうとした時、トンネル側の道から子供たちの声が聞こえてきた。