第767話 獣人の村のお米
エクスデーロ公爵領から帰ってきて数日が経った。
訓練に付き合いに行ったエイデンもすでに帰ってきて、大量の魚介類を持ち帰ってくれたので、昨日の夜は村でちょっとした宴になったのは言うまでもない。
そして今日はスーパーカブに乗って、村までやってきたのは、お米の脱穀や精米のお手伝いにやってきたのだ。
私たちが村から離れている間に、村人たちが稲刈りをしておいてくれたのだ。
でも、乾燥が間に合わないんじゃと思ったら、精霊たちのやる気で、すっかりいい感じに乾燥されているし(遠い目)、脱穀してしまおうという話になったのが、昨夜の宴でのこと。
足踏みの脱穀機や籾摺り用の石臼、精米は水車を使ってやるとのことで、すべてドワーフ製である。
すでに小麦を収穫した時に、一通りやっているが、今回の量はその時の比ではない。
私が手伝いをする意味があるのか、という気もしないでもないが、お米に関しては初めてのことということもあって、総監督的な立場らしい。
村のあちこちから賑やかな声が聞こえる。
「踏み過ぎんじゃねぇ!」
「お前ら、力入りすぎだ!」
「壊れちまうだろう!」
足踏みの脱穀機のほうでドワーフたちが獣人たちを怒鳴る声が聞こえる。
「ねぇねぇ、今度は私がやりたーい」
「重いわよ?」
「大丈夫~」
石臼のところでは孤児院の子供たちが楽しそうな声をあげている。
「……水車、動かねぇな」
「ちょっと待ってろ」
どうも村を取り囲む堀に設置した水車が、上手く動かないらしい。
しかし、しばらくドワーフたちがいじっているうちに動き出して、歓声があがる。
ようやく精米されたお米は、今回の収穫のうちの十分の一にも満たないが、それでも今日の夕飯に村人たちが食べるのには十分だ。
脱穀を終えた籾殻付きの米は大きな麻袋にいれて、村の倉庫へと運んでいく。
「これでも、この冬で食べきってしまいそうですね」
心配そうに声をかけてくるのはハノエさん。
いまだにネドリたちが戻ってこないので、獣人の村の村長代理を続けている。彼女の背中には、くーくーと鼻息をたてながら眠るゲッシュがいる。彼の周りには風の精霊たちが張り付いていて、なかなかシュールな光景だ。
確かに獣人の食欲は、とどまるところを知らない。美味しい肉なんかを手に入れた日には、米が恐ろしいスピードでどんどんなくなっていくのだ。
「来年は、もう少し田んぼを広げたほうがいいかもねぇ」
「そうですね」
なんて話をしていると、村の大きな東屋のほうから、お米の炊けるいい匂いがしてきた。
すっかり、獣人のママ軍団たちは、米の炊き方を習得していて、私が炊くよりも美味しいと思えるくらいになっている。悔しい。
「サツキ様~!」
「はーい!」
名前を呼ばれた私は、東屋のほうへと向かった。
* * * * *
ハノエは倉庫に積まれた米の入った麻袋と、小麦の入った麻袋を見比べて、ため息をつく。目の前の量でいえば、5対1くらいだろうか。
米が新たに倉庫に入ったこともあって、この冬もなんとか越せそうではあるが、使う頻度でいえば、やはり小麦のほうが多い。
――グルターレ商会は、年内に来てくれるのかしら。
王都で五月たちが会って、そのまま南の国のほうへ行くと言っていたと聞いているだけに、ハノエとしては不安ではあるのだ。
――これは、マティーたちに頑張ってもらうしかないのかしら。
マティーとは、元孤児院出身の青年たち。そろそろ、ケイドンの街での買い出しを任せてもいいかもしれない、とピエランジェロ司祭からは言われていたのだ。
「まぁ、なるようにしか、ならないか」
「……あー」
まるでハノエの言葉に返事をするかのように声をあげたゲッシュ。
「あら、起きちゃった?」
「……」
まだ寝ているようだ。
ハノエはクスリと笑うと、美味しく炊けた米の匂いに笑みを浮かべながら、村の東屋のほうへと向かった。
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