第766話 家に帰ってきたぞ
エクスデーロ公爵領からの戻りは、古龍の姿のエイデンが本気の猛スピードで飛んでくれたおかげで、早朝に飛び立ったら、夕方、日が落ちたくらいには村に到着してしまった。
――こんなんだったら、2泊3日で行けたんじゃ。
それに気付いた私は、遠い目になった。
しかし、ケイドンくらいしか他の街に行ったことがなかったし、王都や公爵領の領都に行く機会が得られたのは貴重だったし、キャサリンとも会えたので、後悔はしていない。
あちらでは、週末に温泉旅行に行くくらいはあったけれど、今回みたいな長期間の旅行なんて初めてだったし、こちらでの旅行というのを体験できたことは、大変ではあったものの、よい経験ではあったと思う。
「ん~!」
スマホの目覚ましの、ピコンピコンという音で起きた私は、身体を起こして思い切り伸びをする。久しぶりに自分のベッドで寝られたおかげか、なかなかよい目覚めである。
窓から外を見ると、薄っすら靄っているようだ。
さすがに11月にもなれば、山の中ということもあって肌寒い。グレーの上下のジャージに、紺色のカーディガン(ホワイトウルフの毛)を羽織って、階下へと降りていく。
暖炉の前には、子供の姿のままのノワール、マリン、大きな羊状態のセバスが固まって寝ている。
暖炉の火は熾火状態で、まだ消えていないようだ。小さな火の精霊たちが、熾火の周りを飛んでいて、彼らが火の面倒を見てくれていたようだ。
階段を下りきったところで、むくりとセバスが顔をこちらに向ける。
「おはよう。まだ寝てていいよ」
私の言葉に返事することなく、無表情のまま、再び寝に入ってしまった。
暖炉のところまで行って薪をそっと追加でくべても、ノワールもマリンも起きない。よっぽど疲れていたのかもしれない。
黙々と朝食の準備をしていると、さすがにノワールたちも目が覚めたようで、「おはよう」と挨拶をしてきた。
「おはよう。よく眠ってたね」
「うん……なんか、疲れた」
「ね、なんだろう。私もけっこう疲れが抜けなかったわ」
まだ眠そうな顔のノワールとマリンが、キッチンのところまで来て見上げてくる。
「家に着いたのが遅かったせいかな」
戻ってから村人たちと話し込んでしまって、実際にログハウスの家に着いたのは、すっかり月が中天にかかるくらいになっていたのだ。
「とりあえず、ハムエッグ載ってるお皿持って、テーブルに運んでくれる?」
「はーい」
「私、お箸持ってくー」
私がお箸派なせいで、ちびっ子たちも専用のドワーフ製のお箸を持っている。
ローテーブルにはハムエッグの他に、村でお裾分けしてもらった丸パンをカットしたものも置かれている。丸パンのままだとちょっと固めなのだけれど、カットしてあると食べやすいのだ。
ちびっ子たちには、タブレットの『収納』にしまっておいた冷えた牛乳を、私のはインスタントコーヒーに牛乳を加えてある。
ちなみにセバスには、生野菜を大きなボールにいれてある。ハムエッグが欲しそうな目をしている気がするが、羊の目では意図がよくわからない(遠い目)ので放置だ。
「いただきまーす」
「まーす」
ログハウスの中で、ちびっ子たちが美味しそうに食事をしている姿を見て、帰ってきたんだなぁ、とつくづく実感した私であった。