第765話 家に帰ろう
十分な買い物が出来たので、公爵家の屋敷に戻った私たち。
ケイドンの街にはないような、北欧のものに似たカラフルな食器や、布等の生活雑貨があって、なかなか有意義であった。今度グルターレ商会のカスティロスさんにお願いして、仕入れてきてもらうのもいいかも、と思ったくらいだ。
公爵家の屋敷に戻ったら戻ったで、ノワールたちが「なんで置いてった」と文句を言いだしたので、山ほど買い込んだ屋台飯を出して、納得してもらった。
なにせエイデンが、並んでいる屋台全部から買ってきたんだから、納得してもらわなければ困る(遠い目)。
その屋台飯を食べているところに、ザックスたちも帰ってきた。
「旨そうですね!」
「街で屋台に行かなかったの?」
「いや、ギルドで依頼を受けちゃって」
ザックスたちは冒険者ギルドの依頼を1つだけ受けてきたらしい。寒ギツネというエクスデーロ公爵領にしか生息していない狐を獲ってきて、完了報告までしてきたらしい。
「そいつは凄いな」
私たちの会話を聞いていた、一緒に街まで行ってくれた護衛の男性が呟く。
「そうなんですか?」
「ええ。寒ギツネは用心深くて、なかなか見つけられないんですよ」
「でも、そういうのを狩る人とかいるんじゃないの?」
単純に冒険者たちは、魔物を討伐しているイメージだったのだけれど。
「普通の野生の動物だったらそうなんですが、寒ギツネは強い魔物が多く生息している地域にいるんで、狩人たちも好んで狩りには行かないんですよ」
「そうそう、モグールとかいう大きな猿みたいな魔物がいたんだ」
「あんなの、初めて見たよな」
ザックスたちが楽しそうに話しているけれど、魔物の名前を聞いた護衛の男性は顔を引きつらせている。
「よ、よく、無事に戻ってこれたな」
「うん? ああ、そういや、冒険者ギルドでも言ってたな。あの魔物、こっちのギルドでBランク指定の魔物だって」
「俺たちからしたらCランクの中の下くらいかと思ったんだけどな」
ワハハハと笑うザックスたちに、他の護衛の面々もギョッとした顔をしている。報酬もそこそこよかったようで、ホクホク顔だ。
「まぁ、無事に依頼をクリアしたってことで、よかったわ」
私も一安心だ。
「じゃあ、明日には帰ろうか」
私の言葉に、皆が頷く。
「え、え、もう帰られるのですか!?」
慌てだしたのはリリアさん。
「はい。絵も拝見しましたし、街歩きもしましたし……」
「ちょ、ちょっと、お待ちください!」
リリアさんが護衛の一人に声をかけると、すぐさま公爵家の屋敷のほうへと走っていく。
「いや、いつまでも村の家を放っておくわけにもいきませんし」
さすがに1週間以上家を空けているのは、不安だ。
それに、今頃、村では稲刈りが終わっている頃だ。戻ったら脱穀して、新米を味わいたいし、せっかく買った魚たちも一緒に食べてみたい。
想像しただけで、よだれが口の中にたまる。
「モ、モチヂュキ様! 戻られると聞いたのですがっ!」
屋敷の方から走ってくる前公爵が叫んでいる。その必死な姿に、思わず引いてしまう。
「え、はい」
「いや、まだ、その、エイデン様との訓練が……」
チラチラと前公爵がエイデンのほうを見ているけれど、エイデンは完全に無視だ。
「エイデン、残る?」
「嫌だ」
はい、即答。
「そ、そんな」
ガックリと膝から落ちる前公爵の姿に、少しだけ気の毒になる。
「……エイデン、私たちを村まで送ってくれた後、また戻ってきたら?」
「なんで俺が」
渋い顔をしたエイデンに、こっそりと耳打ちする。
「(もっとお魚とか買ってきてくれたら、村の人たちも喜ぶんじゃない?)」
「(五月も嬉しいか)」
「(当然)」
少し目を閉じ考えたエイデンは、ジロリと目を開けて前公爵に言った。
「美味い魚介類を用意しておけ」
「は、はいっ!」
飛び起きて満面の笑みを浮かべる前公爵の様子に、そんなに嬉しいのか、と、ちょっと呆れてしまった。
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