第764話 領都に滞在する(6)
追加で買ってきてもらった料理が大量に目の前に置かれている。
焼きハマグリみたいに殻ごと焼いたものや、魚の切り身の串焼き、大きなソーセージのようなものや、ハンバーガーみたいにパンに肉を挟んだもの。絶対一人だけで買ってこれるような量ではない。
当然、私とマグノリアさんだけでは食べきれるとは思えなかった。
なので、リリアさんや護衛の男性たちにもテーブルにつくようにお願いしたのだけれど、男性たちには「護衛の仕事ができませんから」と断られてしまった。
確かに、彼の言い分には一理あったので、交代しながら食べることを勧めて、なんとか了承を得ることができた。
私とマグノリアさんの向かい側に、リリアさんと護衛の男性が座る。そのそばに、買い出しに走ってくれた男性も立って周囲を見回している。
「へぇ、こんな味なのね」
「これは何を使ってるんでしょう」
「それはですね。コントリア王国北部でよく使われるソースで……」
「……(もぐもぐもぐ)」
黙々と食べる護衛の男性をよそに、私たち女性陣は料理について色々話が盛り上がる。リリアさんは料理が好きなのか、色々な調味料や食べ物について教えてくれた。
「旨そうなものを食べているではないか」
聞き覚えのある声が聞こえたので顔を向けると、不機嫌そうな顔のエイデンが一人でやってきた。
「え? エイデン、訓練はよかったの?」
どうやって私たちを見つけ出したかは聞かない。聞いても、意味がない気がするから(遠い目)。
エイデンに気付いて驚いたのは護衛の男性二人。座って食べていた人が慌てて立ち上がって、エイデンに席を譲ってくれたので、エイデンはそのまま無言で座る。
偉そうな様子に、申し訳ない気持ちになったけれど、エイデンだしなぁ、と思うと、何も言えないので、せめてもと彼らに向かってペコリと小さく頭を下げる。
「ねぇ、訓練は?」
「やってきた。でも、精霊たちがうるさくて、こっちに来た」
「うるさい?」
「ああ。五月が旨い物を食ってるぞってな」
ニヤリと笑ったエイデンは、目の前にあった焼いた貝を手にとると、つるりと食べてしまう。
「ん、確かに旨いな!」
「あ、新しい物を買って参りますか」
席を譲った護衛の男性が、声をうわずらせながらエイデンに話しかける。
「そうだな……フェリシアたちにも買っていくんだろう?」
「え、うん。美味しかったら、追加しようかと思ってたし……村では滅多に食べられないから、まとめ買いできないかなぁ、とは思ってた」
私にはタブレットの『収納』があるから、焼きたて、作りたてをそのまま大量に持ち帰れる。
「他にも、お前たちのおススメなものがあれば買ってこい。金はこれで足りるか」
そう言ってエイデンがお金を何枚か護衛の男性に渡すと、男性のほうがギョッとする。
「(ど、どれだけの量を買うつもりなんだ!? 金貨10枚なんて! 屋台で売ってる物はせいぜい、銅貨数枚、高いものでも銀貨1枚で釣りがくるんだぞ!?)よ、よろしいんで?」
「ああ。頼む。あ、この貝は追加でな」
「は、はっ!」
ギョッとしている護衛の男性を見て、もしかしてやらかしてるのかな、と察する私。でも、次にいつ来るかはわからない街なのだ。ここは、バーンっと、買いまくってもいいだろう。
すぐに立っていた護衛の男性がお金を受け取って離れていった。