第759話 領都に滞在する(1)
肖像画を見ることができたんだから、さぁ、あとは帰るだけ、と思っていたら大間違い。
前公爵から、せっかく来たのだからと、数日泊まることを勧められてしまった。
「いえいえ、こんな立派なところに私たちは……」
実際、今回の同行者には一人として貴族の身分を持っている人はいない。
しかし、前公爵は考えたらしい。
「屋敷のそばに、別宅がある。そこは曾祖母が息抜き用にと建てた小さな家でな」
そう言われて案内された家は、屋敷のすぐそばにある家で……実際は、けして小さな家ではなかった。(遠い目)
――そりゃぁ、屋敷に比べれば小さいかもしれないけどさぁ。
おじゃまします、と中を拝見すると、ちゃんと管理されていたようで埃もなく、すぐに使える感じだし、屋敷に泊まるよりはマシかもしれない、とチラリと思ってしまう。
それに、前公爵だけだったら多少強引でも断ってしまうところだったんだけど、奥様の期待の目を向けられてしまっては、断れなくなった。
特にこの屋敷にはちびっ子がいなかったので、うちのちびっ子たちが一緒だったのが、奥様には嬉しかったようなのだ。
こっそり、メイドさん? 侍女さん? が教えてくれた話によると、最近は奥様が体調を崩しがちということで王都にもいけないし、キャサリンも大きくなってなかなか領都まで来る機会が減って、会う機会が減って寂しがっていたらしい。
そして、ちょうどノワールのちびっ子の姿が、キャサリンの弟くらいなのだそうで、余計に嬉しいのかもしれないとのこと。
キャサリンに弟がいたのか、と、ちょっとびっくり。王都では紹介されなかったけれど、ノワールくらいと言われれば、なかなか言うことを聞かない年齢で、あの場には連れてこれなかったのかもしれない……ノワールは言うこと聞くけどね。
翌朝は全員で小さな家で朝食をとれたので、少しホッとした。前日の夕食をエイデンと私がお相手したから、余計にだ。
「あったわ! これが7よね?」
「そうそう!」
「わたしもあったわ! これ、『くいーん』よね」
ちびっ子たちの甲高い声が屋敷の中で響く。そのちびっ子たちは奥様相手にトランプのやり方を教えて一緒になって遊んでいるのだ。
今は七並べをしているようで、大きなテーブルにトランプが並べられている。
テーブルの上にちびっ子たちが身を乗り出している様子は、マナーとして大丈夫なのかとハラハラするものの、それを嫌そうな顔もしないで、使用人の人たちはニコニコ見てくれているので、少し安心する。
高級そうな物が置かれている屋敷の中を走り回ってないだけ、いいかもしれない。
一方、エイデンは前公爵から公爵領の騎士団の訓練を頼まれ、まんざらでもない顔で前公爵と一緒に訓練場に行ってしまった。
ザックスとマークはこの機会にと、公爵領の冒険者ギルドに行ってしまった。王都でも私とエイデンがキャサリンの屋敷に行っている間に、『焔の剣』の面々と見に行ったらしい。
王都には辺境のケイドンとは違って、魔物の種類が違ったり、護衛の依頼が多かったりと、色んな依頼があったそうで、公爵領の依頼も確認してみたいそうだ。
残されたのは私とマグノリアさん。
「どうしましょうね」
「……せっかくだから、観光がてらお買い物でも行く? 王都は通り抜けたようなもので、街の風景を眺めただけだったし」
そうして私たちは領都でくりだすことにした。
ワクワク、である。