第756話 エクスデーロ公爵領領都、到着
薄っすらとした雲が空を覆っている。
エクスデーロ公爵領の領都には、昼の少し前に到着した。村を出た時は外は少し肌寒かったが、こちらのほうが北にあるせいか、グッと冷え込んでいる感じだ。
今回はすぐに公爵家に行く可能性もあるので、ドレスを着ている。
しかしドレスと言っても馬車での移動時間も考えて、キャサリンに会いに行った時に着たようなゴージャス系ではなく、ケイドンで買ったシンプルな深緑色のドレスだ。時代遅れらしいけど、私は気にしない。
私の向かい側には目を閉じたまま腕を組んだエイデンが座っている。ちびっ子たちとマグノリアさんは後ろの簡易ベッドで、相変わらずトランプに夢中。
窓の外を眺めると、王都ほどではないものの、領都も立派な石壁に囲まれている。
「ここも随分立派な壁だねぇ」
思わず、小さく呟いてしまう。
その領都へと入るために、大きな門の前に並ぶ馬車や旅人たちに続いて私たちの馬車も並んでいる。ゴーレムの馬を使っているせいで、注目の的になっているようだ。
そんな中、門衛のおじさんの一人が近づいてきた。
御者台にいるザックスとマークに声をかけているようだ。
少しして門衛のおじさんが馬車のドアのところまでやってきたので、窓を開ける。
「モチヂュキ様の馬車でよろしいでしょうか」
事前に連絡が入っていたのだろうか。少し緊張した面持ちのおじさんが問いかけてきたので、私はにっこり笑って「はい、そうです」と答えた。
「ただいま公爵家へ連絡をいれますので、あちらで少しお待ちください」
門衛のおじさんが門に並んでいる列から私たちの馬車を離して、もう一つの門のほうへと誘導してくれた。たぶん貴族専用の門だろう。
領都の中へと入った馬車は、衛兵所らしき石造りの家のそばへと案内された。
ザックスたちの身分証の確認はしたようだけれど、入街税は必要ないとのこと。公爵家から言いつかっていますので、と断られてしまった。本当にいいんだろうか、と少しだけ心配になる。
ずっと馬車に乗ってたこともあって、私は馬車からおりて背伸びをする。ドレス姿ではしたないと言われそうだけど、自然と動いてしまうのだから仕方がないと思う。
「こいつは立派なゴーレムですなぁ」
人の良さそうな顔の門衛のおじさんが目をキラキラさせながら馬のゴーレムへと目を向けて、ザックスたちに声をかけている。ザックスたちも何やら自慢げに話している。
後からおりてきたエイデンが私のそばに立ち、周囲を見回している。何が気になるのかと思ったら、チラチラと他の門衛の人たちがこちらを見ていたようだ。
――おじさんが気にするくらいだから当たり前か。
「よろしければ、触ってみますか?」
多少触れたくらいでどうこうなる代物でもない。
私がおじさんに声をかけると「よ、よろしいのですか」と、声を上ずらせて聞いてくる。
「ええ。他の方もよろしければ」
そう答えると、チラチラ見ていた人たちが嬉しそうに小走りに集まってきた。
門衛のおじさんたちとゴーレムの馬のことを話しながら、しばらく待っていると、本物の馬に乗った紺色の制服を着た騎士が二人ほど現れた。
一人は五十代くらい、もう一人は二十代くらいと若い。似たような顔立ちの二人は親子のようにも見える。
二人とも馬から颯爽と降りると、馬を門衛の人にまかせて私たちへと近づいてきた。