第753話 高級宿は落ち着かない
予想外の公爵家での食事は、ありがたいことに私に合わせてくれたのか、だいぶ略式なものにしてくれたようだった。
シンプルなお肉のソテーに根菜のサラダ、スープはコーンだろうか。馴染みやすい味にホッとした。パンはこちらでは珍しい白いパンで、味は……やっぱり、あちらのほうが美味しかった。
テーブルマナーなんて、何回かの友人たちの結婚式の披露宴での食事くらいなものなので、かなり緊張したけど、ギリギリクリアした……だろうか。
食事中、公爵がエイデンに聞いてきた内容は、ほぼ前公爵と同じことで、前公爵と同じように目をキラキラさせていた姿は、ああ、親子なんだなぁ、と思った。
公爵家を出るときには、キャサリンが寂しそうな顔をしていたけれど、また村に遊びに来てね、と伝えたら、嬉しそうに頷いてくれた。
私たちは無事にカスティロスさんたちが定宿にしている高級宿にやってきた。
公爵家の馬車で宿の前まで送られた時には、どうしようと思ったが、エイデンが颯爽と降りて私をエスコートしてくれたのでなんとか頑張った。
ちなみに、マグノリアさんやちびっ子たちは『焔の剣』の皆さんと一緒にいてもらったのだけれど、高級宿についた時には1階のロビーのようなところで待っていた。
マグノリアさんやザックスたちはカチコチになってたけれど、ちびっ子たちは人の姿のカスティロスさんを巻き込んでトランプをして遊んでいたのには、苦笑い。
「ほほぉ。これが王都の一流ホテルですか」
ちゃんと予約をしていたわけではないので、空いているところで構わないと言ったのだけれど、思っていたよりもよいお部屋を用意してくれたようだ。
案内してくれたのはカスティロスさん。まるで、この宿の支配人みたいだ。
「エイデン様と同じお部屋がよろしいかと思ったのですが」
「はぁ?!」
カスティロスさんが不穏なことを言うものだから、思わず素っ頓狂な声で聞き返してしまった。
――いやいやいや。
さすがに、エイデンと同じ部屋で寝泊まりはしないだろう。というか、こちらの常識として、若い男女が同じ部屋で泊まるとか、ありなのか?
驚いた私に、逆に驚くカスティロスさん。
「いえ、あの、思ったのですがぁ、向かい側の部屋を押さえましたので」
「あ、ありがとうございます」
ホッとしている私に、カスティロスさんは残念そうな顔。エイデンはガッカリした顔をしている。
たとえ相手がドラゴンでも、見た目は立派な体格の男性なのだ。それも、質の悪いことに相当なイケメン。
――時々、心臓に悪いのよね。
甘い笑みを浮かべたエイデンを思い浮かべてしまい、意識してしまった私は、ちょっとだけ顔が熱くなる。本当に今更である。
私の部屋は、寝室が二つついている広い部屋で、一部屋は私とちびっ子たち、もう一部屋はマグノリアさんとフェリシアちゃん。
向かい側はもう少し小さい部屋で、エイデンとザックスとマークが泊まることになった。
ちなみにセバスも子羊状態だったら、ということで私たちと同じ部屋にいてもよいことになった。
……お金の力は偉大だ。
「サツキ様、明日には発たれるのですか?」
「そうですね。王都にもたまたま寄っただけですし」
「せっかくだったら、王都観光をされてもよいのでは。宿はこのままお使いいただいても大丈夫ですよ?」
「いやいや、それはさすがにねぇ」
私のほうも、こうも高級なお部屋に居続けられる気がしない。ベッドは天蓋付きだし、絨毯もかなり上等だし、カーテンもかなり厚手のものなのだ。
そういえば、キャサリンたちはまた来年の夏あたりに遊びに来るのだろう。それまでに、もう少し、宿舎の周辺を見直してもいいかもしれない。
王都の冒険者向けの宿には負けてはいない。しかし、この部屋を見てしまったら、ちゃんとしないとダメかも、とつくづく思ってしまった。
体調不良でお休みいただいていました。すみません。
まだ咳が残ってはいますが、なんとか復活いたしました。
5巻の校正も重なっていて、へばり気味ですが、頑張ります~。