第748話 『焔の剣』との再会
馬車があまりスピードが出ていないとはいえ、いきなり馬車に近づいてくるなんて危なくないのだろうか。
『サツキ様!』
窓越しにくぐもった声が聞こえたので、手を振ってから御者台のほうを指をさすと、ドゴールさんは頷いて前のほうに走っていく。
「びっくりだね」
「そうですね」
マグノリアさんと目を合わせて、思わず、クスクスと笑ってしまった。
少しすると馬車のスピードが落ちた。エイデンたちがドゴールさんと話ができたのかもしれない。
気が付くと、左側の窓の外には『焔の剣』のメンバーの熊獣人のマックスさんがザックスと話をしながら歩いていて、右側の窓の外にはエルフのセッティさんと虎獣人のキャシディさんがいる。
三人がエルフと獣人なせいか、それとも単に大柄な体格のせいもあってか、街の人たちは避けているような感じだ。
「あれ、もう一人いなかったっけ」
「一番若いサントスさんの姿が見えないですね」
「ああ、細身の男の子だったっけ」
「そうです、そうです」
そんな話をしているうちに、馬車が左折して脇道に入っていくが、しばらくして馬車が止まった。
窓から見ていると、ザックスがドアの前にきたので、窓をあけてみる。
「ん? ここどこ?」
脇道に入ったせいか、人の気配があまりしない落ち着いた感じの場所に、石造りの三階建て、馬車が二台くらい並べられるくらいの横幅がある、大きな家が建っている。
大きなドアの上には看板が掲げられているので、普通の民家とは違うのだろう。
「サツキ様、ここ、サントスさんの実家なんだそうです」
「へ?」
予想外の情報に驚いていると、そばにいたマックスさんがワハハと笑う。
「驚くよな、あれが王都育ちのいいとこのボンボンなんてな」
「マックスさん! 俺はボンボンじゃないっすよ!」
サントスさんが大きなドアから出てきた。
「え、王都に家があるってだけで、十分ボンボンでしょ」
「ザックスまでぇ」
「こら、サントス、騒いでんじゃないよ」
サントスさんが情けない声をあげていると、その後ろから恰幅のいい中年女性が現れた。
「うわ、姉ちゃん」
サントスさんの母親にしては、ちょっと若いかな、と思ったらお姉さんだった。そのお姉さんが、声をあげたサントスさんの頭をペシンと叩く。
「お客さん、すみませんね。馬車はその奥に馬車置き場があるんで、中にどうぞ」
大きな馬車が目の前の通りに止まっているのだ。さすがに邪魔になっているのは私でもわかる。
「五月、馬車を止めてくるから、みんな、いったん馬車からおりてくれ」
エイデンが御者台からおりてきた。
「エイデン、ここって」
「そこのサントスの実家の宿屋なんだそうだ。せっかくだから、少し、ここで休ませてもらおう(キャサリンのところと連絡をとっているのだろう?)」
最後は、こっそりと言ってきたので、私は頷く。
私たちはちびっ子たちと一緒に馬車からおりた。子羊セバスは残念ながら一緒には入れなくて、馬車の中でお留守番になった。
ドゴールさんの話では、この宿は冒険者向けの宿だそうで、『焔の剣』の王都での定宿なのだそうだ。
「へぇ、一階は食堂になってるんだ」
思っていたよりも広い食堂に、ちらほら食事をしている人と、給仕をしている女の子の姿が見える。
「もう少ししたら昼時になるから、もう少し混んでくるだろうな。オクサーナ! 俺たちは上にいる」
「あいよ。後でお茶持っていかせるわ」
「すまんな! サツキ様、三階に俺たちが借りている部屋があるんだ」
「は、はい」
ニカッと笑うドゴールさんに促され、私たちは階段を上って彼らの部屋へと向かった。