第747話 王都に入る
王都に入る街道に並んで30分ほども待っているうちに、大きな門までたどりついた。
中に入るためには、身分証を提示するか、入都料を支払うことになる。王都ということもあってか、ケイドンの街よりもちょっとお高めだ。
エイデンやザックス、マークにはギルドカードがあったけれど、馬車の中にいる私たちはお金を払って中に入ることができた。
思ったよりすんなり入れたのは、ゴーレムの馬を使った立派な馬車だったのと、Aランク冒険者になっていたエイデンの存在が大きいようだ。門衛の若者が目をキラキラさせながら、ギルドカードを確認していたのを見ると、Aランクはやっぱり凄いんだろう。
うちの村にはゴロゴロいるけど。
「……本当は残念エイデンなのにねぇ」
「フフフ」
思わず呟いてしまった声に、マグノリアさんに笑われてしまった。
「貴族と間違われそうになったのは、びっくりだったわ」
「紋章がない馬車なので、お忍びとでも思われたのかもしれませんわ」
並んで待っている間に、わざわざ確認しに門衛の一人がやってきたのだ。門衛には貴族には貴族専用の門があると言われたけれど、私たちは貴族ではない。
一応、前公爵からの紋章付きの手紙は預かっているけれど、下手に使って面倒なことに巻き込まれるのも嫌なので、そのまま一般の門に並ぶことを選んだのだ。
「おお~、ケイドンの街の門とは迫力が違うね」
門をくぐるときに、石壁を窓から見上げたのだけれど、厚さが違う。
「なんだって王都にこんなに厚い石壁があるのかな」
王都周辺は、数カ所林が点在しているけれど、ほとんどが畑などの田園風景が広がっている。
「私も昔話で聞いただけですが」
そう言ってマグノリアさんが教えてくれた話によると、王都がある場所は、昔は大きな森が広がっていたところで、今の王家の始祖が少しずつ開拓していった場所だったらしい。
その当時の森の中には強力な魔物も多く存在していて、魔物たちから街を守るために大きな石壁を作ったのだそうだ。
へぇぇ、と感心しながら窓の外を眺める。
門をこえたけれど、相変わらずノロノロ進んでいるので、馬車の脇を通っていく人々の姿がよく見える。
ケイドンの街に住んでいる人たちよりも小綺麗な格好をしている人が多いようだ。
「わ、大きな建物」
道沿いの建物は、そこそこ立派な石造りの家が続いていたけれど、その中でも目を引く大きな建物がある。
その周辺にはガラの悪そうな人が多くいるように見えたけれど、看板の文字に見覚えがあった。
「冒険者ギルドかぁ」
「……王都のギルドは、随分と大きいのですねぇ」
「びっくりね」
ケイドンのギルドの建物も大きいと思ったけれど、その比ではない。
縦横ともに倍以上ありそうで、あっけにとられながら見上げていると。
「あら?」
マグノリアさんが声をあげた。
「どうしたの?」
「いえ、今、ギルドのドアから出てきた方が、見覚えがあるな、と思いまして」
「え?」
私もギルドのドアのほうを見ると、そこにいたのはグルターレ商会の護衛を請け負っているBランクパーティ『焔の剣』のドゴールさんだった。
私と目があったのに驚いて固まってる姿に、笑いながら手を振ると、彼の後ろには他のメンバーもいたのか、ぞろぞろと出てきた。
ドアの周囲にいた冒険者たちが道をあける様子に、思わず笑ってしまう。
「もしかして、カスティロスさんたちも王都にいるのかな」
「かもしれませんね」
マグノリアさんとそんな話をしていると、笑顔のドゴールさんが馬車の脇に走ってきた。