第742話 ノワールとマリンを叱る
結論。ノワールもマリンも戻れるようになっていた。
「ずっと、戻れないのかって心配したのに」
少しばかり、お怒り気味の私。
今、私の目の前には正座をしているノワールとマリン、その後ろになぜかセバスも座っている。
私たちは全員馬車の中。御者のザックスとマークもだ。
そして馬車は、エイデンが古龍の姿に戻って、抱えて飛んでいる。
さすがに、あんな人達と同じ場所で野営する気にはならなかった。暗いけれど移動しようと言ったら、エイデンが運ぶと言いだしてくれたのだ。
馬車に乗り込みドアをしめて少しすると、外からギャーギャーと喚く声が聞こえたけれど、それも一瞬。すぐに空の旅に変わった。
そして、目の前の状況である。
狭い馬車の中でちびっ子が正座している姿は、可哀想に見えるかもしれないが、ここは心を鬼にする。
「ごめんなさーい」
「悪かったわ」
下から見上げてくる二人の申し訳なさそうな顔に、はぁと思い切り、ため息をつく。
話を聞けば、ノワールが戻れるようになったのは、前公爵からの手紙が届いた頃。マリンは、もう少し前に戻れるようになっていたらしい。
二匹とも、子供たちと遊ぶのが楽しいのと、ノワールはうちで皆と一緒にいられるのが嬉しかったらしい。
一度、戻ってみた時には、さすがに古龍サイズまでにはなっていないものの、ドラゴンの姿でお座りしたら、うちのログハウスよりも大きくなっていたそうだ。
私はもう一度二人へ目を向ける。
「……まぁ、戻れるんだったらいいわ。でも、これから行くところでは、子供の姿のままね。魔物と思われて狙われたら面倒だもの」
「わかってるわ」
「わかってるって」
私の言葉に、パーッと笑顔になった二人はささっと立ち上がって(足は痺れていないらしい)、フェリシアのほうへと行ってしまった。
「まったく」
「フフフ、でもよかったではありませんか」
「そうですけど」
マグノリアさんの言葉に、私も落ち着きを取り戻す。
私がちびっ子二人を叱っている間に、ザックスたちがマグノリアさんに移動することになったことを説明してくれたらしい。
「それにしても、バカな人もいるもんですねぇ」
「ほんとですよ。でも、エイデンがいてくれてよかったわ」
「すみません。俺たち、全然力不足で」
「悔しいっす」
「でも、相手の護衛の人達の方が力がありそうだったじゃない」
実際、彼らの着ていた服というか防具は、かなり年季がはいった感じだったし、馬車を数台連ねるような商会だったら、それなりの実力者を雇っているだろう。
「……押さえつけられた時、こそっと耳打ちされたんですけど」
護衛についていたのは専属契約をしていたCランクの冒険者パーティだったそうで、無理に反抗しないほうがいい、と言われたらしい。
ちなみに、ザックスとマークは二人ともDランク。村の獣人でいうと、ドゴルたち若者組がそろそろCランクが見えてきたという話だ。
「Cランクだったら、グルターレ商会の護衛をやってる『焔の剣』よりも下よね?」
「サツキ様、彼らと比べちゃダメですよ」
「そうなの?」
マークに苦笑いされてしまった。
イマイチ、二つのパーティの力の違いがわからない。
『そろそろ降りるぞ』
「え、もう?」
エイデンが声をかけてきた。飛び立って、1時間もしていないはず。
私は窓際のカーテンを開けて外を見る。月明かりに照らされて見えるのは、草原だろうか。遠くには小さな丘や森も見える。
ケイドン周辺とは違って、緑が多いように見える。
「どこら辺まで来てるのかしら」
私がぽそりと呟くと。
『もう王都が見えるくらいまで来てるぞ?』
「ひえぇぇぇぇ!?」
エイデン情報に、思わず変な声をあげた私であった。