第733話 教会の子供たちと、手紙の返事
前公爵への手紙をタブレットの『翻訳』を使いながら書いたものの、不躾なものになっていないか心配になったので、ピエランジェロ司祭に書き直してもらいに、村へと向かった。
さすがに、キャサリンに送ったような、ラフな手紙というわけにもいかないだろう。
昼を過ぎた時間なので、孤児院の子供たちがそろって教会の食堂に集まっていた。すでに食事が終わっていたようで、片づけを始めているところだったようだ。
そこには、マグノリアさんの手伝いをしているマティーたちの姿があった。
村にやってきた時は、顔を強張らせて、不安そうに見えたけれど、今は皆、穏やかな顔で小さい子たちを相手にしているようで、ホッとした。
「こんにちは。司祭様は?」
「あ、サツキ様、こんにちは。司祭様でしたら、執務室にいらっしゃいます」
マグノリアさんが食事を終えた皿を集めているところに声をかけると、にこやかに教えてくれた。
「わたしがあんないするー!」
「え、わたしー!」
マグノリアさんの娘のフェリシアちゃんが声をあげると、他の女の子も声をあげる。
わらわらと集まってきたかと思ったら、手をとられて、あっというまに執務室のドアの前に案内されて、子供たちがドンドンと力強くドアをノックした。
『はい』
「しさいさまー! サツキさまがきたよー!」
「サツキさまー!」
元気な声に、私も苦笑いを浮かべていると、ピエランジェロ司祭がニコニコしながらドアを開けた。
「おお、皆、ありがとう。さぁ、サツキ様、どうぞ、どうぞ」
「すみません。お忙しいところ。皆、ありがとうね」
私はそう言いながら、斜め掛けバッグからタブレットを取り出すと、『収納』から手作りの生キャラメルの入ったジッパー付きのビニール袋を渡す。
前に、牛乳が溜まりすぎたので、キャラメル作りに挑戦してみたら、山ほど出来てしまったのだ。大半はノワールたちが食べてしまったけれど、まだストックが残っている。
『鑑定』? していませんが、何か?(遠い目)
「皆で仲良くわけてね」
「ありがとう!」
「はーい!」
嬉しそうな声をあげて戻っていく子供たちの背中を見送り、司祭に促され、部屋の中に入る。
あまり広くない執務室に入ると、さっそく私の書いた手紙を渡す。
「なるほど。清書をすればよろしいので?」
「いえいえ、清書というよりも、書き直してもらうくらいかと思うんです」
「……かしこまりました」
フッと優しい笑みを浮かべるピエランジェロ司祭。あえて、ツッコんでこないことに感謝。
「ところで、今回はお手紙を運んできた人は?」
待たせている人の姿もないので気になって聞いてみると、ウフフと嬉しそうな顔をした司祭。
「実は、これを前公爵からお貸しいただいていたのです」
私の手紙を執務机の上に置くと、そこに置かれていた両手で持てるくらいの大きさの箱を手にとった。
宝石箱か、と思うような綺麗な彫り物がされていて、所々に宝石なのか、色とりどりの石が埋め込まれている。
質素な執務室の中では異様に目立つ。
「こちらに手紙を入れて頂ければ、対になっている箱に届くようになっております」
「おお、魔道具ってヤツですね」
確か、モリーナさんのところにも似たような物があったはず。あちらは手紙の他に、箱に入るサイズの物も送ることができるとか、聞いた覚えがある。
司祭の手にある物には、そこまでの機能はないらしいので、さすがエルフの魔道具といったところか。
「とりあえず、エイデンが戻ってきたら伺いますと、お伝えいただければ」
「畏まりました。私が代筆させていただきましょう」
私はピエランジェロ司祭にお願いをして、教会をあとにした。