第731話 若者を面接してみる
ゲイリーさんがケイドンから戻ってきたのは翌日のこと。それも朝早くに出たのだろう。お昼前には教会にやってきていた。
私はログハウスの敷地で畑仕事をしていた。
相変わらず、旬関係なく育つ野菜たちだけれど、ありがたく思いながら収穫している。
今はかぼちゃが大量に生っているので、どんどん籠にいれて貯蔵庫へと運んでいる。貯蔵すると甘みが増すらしいので、貯蔵庫の棚はかぼちゃだらけになりつつある。
収穫し忘れてデカくなったみたいな大きさなので、一つで色々な料理が作れそうである。
何がいいかなぁ、なんてかぼちゃを抱えて考えているところに、ギャジー翁の『すまほ』からゲイリーさんたちがやってきたという連絡がきた。
念のためにピエランジェロ司祭にギャジー翁に声をかけるようにお願いしておいたのが功を奏したようだ。
私はスーパーカブに乗って村へと向かう。
エンジン音が山の中を響くものだから、その音を聞きつけたウノハナとシンジュが後を追いかけてきた。
村の裏手に停めると、テオとマルが迎えにやってきたかと思ったら、ウノハナたちにタックルしている。私じゃないのかい、と内心突っ込みつつ、楽しそうな子供たちに笑みを浮かべ、スーパーカブを『収納』して教会のほうへと向かう。
教会の礼拝堂のドアを開けると、中にはピエランジェロ司祭とともに、ゲイリーさんと若者たちが一緒にいた。
「お早いお着きで」
私の顔を見て、ピエランジェロ司祭は驚いた声をあげる。
確かに以前だったら、ログハウスの敷地まで連絡するために誰かをやらなければならなかったけれど、『すまほ』のおかげでその必要もなくなり、かなり時間が短縮されたのだ。
ありがたや~、である。
「ところで、そちらが?」
ピエランジェロ司祭がハッとした顔をした後、若者たちの背中を押して、私のほうへと挨拶するように促した。
目の前の3人の若者は、十代後半から二十代前半くらいだろうか。
農作業をしてきたというだけあって、がっちりした体格をしている。背の高さは似たようなもので、皆170センチよりちょっと大きいくらいだろうか。獣人たちは大柄な人が多くて、それを見慣れているせいか、若者たちはあまり大きい感じはしない。
日焼けをしているのもあって、引き締まった感じではある。
ペコリと頭を下げた3人。
「マティーといいます」
「ダリルです」
「……レノです」
3人の中で一番年長なのはダリルだそうで22才、次にレノ20才、マティーが19才。でも、この中で一番しっかりしていてリーダーっぽいのがマティーだそうだ。
農場では、ゲイリーさんたちの手伝いが主だったのが、もう少ししたら畑の一区画を任せようかという話が出ていたところで、今回の話になったのだそうだ。
3人とも、緊張しているのか、顔を強張らせている。私も就職面接の時はかなり緊張していたのを思い出して、苦笑い。
そして肝心なのは3人ともに、小さい精霊の光りの玉が飛び交っていることだ。
――街のほうの精霊は、やっぱり小さい子たちばっかりなのかな。
ジッと彼らの周りの精霊を見ていたのだけれど、私がしばらく無言でいたせいか、3人とも顔が青ざめてきた。
「あ、えーと、司祭様から筆記や計算はできるって聞いているんだけど、本当?」
一瞬、3人で顔を見合わせてから、コクリと頷いた。
「でも、あの、しばらくやってないんで、自信はないです」
代表して答えるマティー。
でも、まったく使えないわけではないのだから、復習すればなんとか使えるようになるんじゃないか、と思う。
光の玉の精霊たちからの視線(目はないのに感じる)に負けたのもあるけれど、少なくとも悪い子たちではなさそうだ。
「そうですね。しばらく教会に滞在してもらってください。司祭様から見ても問題なさそうだったら、頼みたいお仕事があるんです」
「あ、ありがとうございますっ!」
最初にがばりと頭を下げたのはゲイリーさん。
何気に若者の後ろのほうで心配そうな顔で見ていたのに、私も気付いていた。
「ありがとうございますっ」
3人もゲイリーさんに習って、頭を下げると。
「やったー!」
「マティーにいちゃ!」
「ダリル兄、レノ兄!」
いつの間にか孤児院の子たちが教会の外で様子を伺ってたらしい。
勢いよくドアを開けて飛び込んできたかと思ったら、皆が皆、3人に抱きついていた。
――これだけ、子供たちに好かれてるんだもの。大丈夫でしょ。
彼らの姿を見て、ホッとした私なのであった。