第730話 異世界だって世知辛い(2)
嫁姑問題ならぬ、嫁舅問題勃発……にもなってないらしいゲイリーさん宅。
最近、農場の仕事のほとんどを息子に任せるようになり、その息子も嫁側に立っているのだそうで、ゲイリーさんの発言権はないに等しいらしい。
どんだけ強いのだ、その嫁は。
そうなると、追い出されるのは孤児院出身の若者たちということになってしまう。
だったら、新しい働き先くらい探してやればいいものを、すぐにでも追い出す勢いなのだそうだ。
ゲイリーさんにしてみれば、働き手として育ててきた若者たちが、軽々しく扱われるのが悔しいらしい。
「それで司祭様に相談に来たら……サツキ様を紹介されたんで」
「なるほど?」
「サツキ様……村で雇うことはできませんでしょうか」
ピエランジェロ司祭は申し訳なさそうな顔で見てくる。
正直、村の中の話でいえば、十分人手は足りている。それにいまだに獣人の村として公開していないし、誰でも入れるわけでもない。
安易に人を増やすのもなぁ、という気もしているのだ。
「うーん」
どうしようかと悩んでいると、風の精霊たちがふよふよと飛んできて、私の肩にとまる。
両肩にのっている姿は、目の前の二人には見えていない。
『おじいさんのところのこ、ひとりはつちのにきにいられてるわ』
右肩に乗っている子が、こそりと耳打ちしてきた。
『もうひとりは、ひのにきにいられてる』
『ひとりは、みずのにきにいられてる』
左肩に乗っている子と、乗り切れなくて頭の上にいる子も小さい声で伝えてくる。
――ええ! マジで!
思わず大きな声を出しそうになったのを、飲み込む。
「あの、その孤児院の子たちというのは何人なんですか」
「は、はい。3人です」
なるほど。精霊に好かれている子たちが追い出されるわけだ。これは、引き取ってあげたほうがいいかもしれないけれど……。
ゲイリーさんの期待の視線が痛い。
「まずは、面接してからでいいですか?」
「め、面接ですか」
「ええ。ゲイリーさんにはいい子たちなのかもしれませんが、実際に会ってみないと……うちの村に合うとも限りませんし」
「さ、さようでございますか」
しゅんとなるゲイリーさん。
自分で言っておいてなんだけど、たぶん、精霊たちがGOサイン出しそうな気はする。
ゲイリーさんは明日にでも連れてくると言って、荷馬車に乗って帰っていった。
戻った農場で、ゲイリーさんも大変そうだなぁ、と離れていく荷馬車を見送った。
「……サツキ様、やはり難しいのでしょうか」
一緒に見送っていたピエランジェロ司祭。
彼も知っている子たちなのだろう。心配そうな顔をしている。
「いやー、会ってみないとわからない、というのが本音です」
「まぁ、そうですよね」
「でも、ちょっと考えていることがあります」
うちの村人ではできない、厳しい仕事だけれど、人族の彼らにだったら簡単な仕事だ。ただ、彼らに任せられるのか、が問題。
「ゲイリーさんのところの子たちって、畑仕事しかしてこなかったんですよね」
「はい。孤児院出身というだけで、なかなか仕事につけないので……ゲイリーの農場はそんな中でも貴重な就職先ではあったのです」
冒険者には向いていなかった彼らが、ケイドンの街でできる仕事は限られてくるそうだ。
「彼らは筆記や計算はできるんですか」
「はい。一通りのことは学ばせたのですが……それでも難しいんですよ」
なかなかに世知辛い世の中のようだ。
でも、農作業以外もできる可能性があるなら、彼らにお願いしたいことがある。
ケイドンの街への買い出しだ。