第728話 赤ん坊狂騒曲
いやはや、赤ん坊というもののパワーを侮っていた。
「お、重いっ」
6人の赤ん坊とともに、客間に残されている私。
客間と言っても、家具の類は片付けられていて、完全に赤ん坊たち専用のプレイルーム状態だ。
その部屋で、キャッキャ、キャッキャと、なぜか私の身体に上がろうとする赤ちゃんたち。
生まれて半年近くなるボドル・リリス夫妻のマリアンと、コントル・ケイト夫妻のボビーなら、まだわかる。マリアンは私の腰に、ボビーは肩車状態だ。
なぜかまだ三ヵ月くらいのママ軍団の赤ん坊四人も、私の足でつかまり立ちしているのだ!
ちょっとママたちが離れた隙にこれだ。
獣人の赤ん坊、恐るべし。
「アウアウアー」
「ウ?」
「ダー!」
「ブゥ」
「キャキャッ」
「ニヤァァァァ」
6人の赤子の意味不明な大合唱は、彼らなりに会話が通じていそうだ。
そのうえ、赤ん坊たちを気に入っているのか、この部屋には精霊たちがいっぱい。精霊たちの楽し気な声も聞こえてくるから、うるさいこと!
赤ん坊たちには、確か、精霊の加護がついていたはず。もしかしたら、自分に加護を与えている精霊たちの姿が見えているのかもしれない。
飛び交っている精霊を視線がキョロキョロと追いかけている。肩車になっているボビーは手を伸ばして捕まえようとするから、私の身体のバランスをとるのも大変だ。
「た、助けてください~」
私の情けない声に気付いて慌ててやってくるママたち。
「すみません、すみません、ボビー!」
「ほら、マリアン!」
「ミコル、モコル、ダメよぉ~」
「ゲッシュ、いい子ね。ママのところにおいで」
「ターナ!」
なんとか赤ん坊たちを身体から剝がされて、ホッとする。
――可愛いっちゃ、可愛いんだけど、これはキツイわ~!
特にマルママのところは双子(ミコル、モコル)だから、大変そうだ。一応、マルもお兄ちゃんとして頑張ってるんですよ~、とニコニコ言うマルママ。
あの一番末っ子感のあったマルがお兄ちゃんだというのだから、子供の成長って凄い。
そのマルは、今日は父親のヘデンさんと一緒にエイデン温泉にルーアル石を集めに行っているらしい。
このママ軍団の中で、一番大変なのはハノエさんだろう。
ネドリとガズゥが旅だって二カ月近く経つけれど、その間一人で赤ん坊と村、両方気にかけなければならないのだ。
「アウアウ」
「なぁに、ゲッシュ」
ハノエさんには見えないけれど、ゲッシュの伸ばす手の先には、風の精霊たちが追いかけっこのように飛び交っている。
「キャッキャ」
「そう、楽しいの~」
『たのしいの~』
『たのしいよね~』
赤ん坊と母親たちとの会話に、精霊たちも紛れて入り込むから、私にはわちゃわちゃ聞こえるから、苦笑い。
「そういえば、ノワール様たちは?」
ハノエさんがゲッシュをあやしながら聞いてきた。
最近、私の後をついて歩いていたノワールとマリン、セバスだったのだけれど、赤ん坊たちのところに行くと言ったら、ぴゅーっとどこかに行ってしまったのだ。
逃げられたと伝えれば、ママ軍団は大笑い。
ドラゴンや聖獣が逃げだす赤ん坊たち最強説が爆誕した。
そんな話で盛り上がっているところで、ドンドンと玄関がノックされた。