第726話 アスファルトの道を敷こう
ルーアル石をとりに行った翌日。私は早めにお昼をとると、さっそく村に向かった。
スーパーカブのエンジン音が山の中に響く。
まだ暑さが残っているものの、背の高い木々のおかげで山の中は、なんとか過ごしやすい。風をきって走るせいもあるかもしれない。
私の周りは風の精霊たちが楽しそうに飛び交っている。
――これ、見える人がいたらどう思うんだろう。
そんなことを考えているうちに、村に到着。
お昼時だったせいか、村の中は静か。私はスーパーカブをタブレットの『収納』でしまうと、ドワーフの家が並んでいるあたりへと向かう。
緑の葉が生い茂っている桜並木がずっと続いている道は、若干凸凹になっている。ここを走るのは主に私の軽トラ。タイヤの跡がくっきりと残っている。
「さぁて、アスファルトを敷きますかね」
片手に持ったタブレットの『ヒロゲルクン』を立ち上げる。
当然、選択するのは『アスファルト』。敷いていく範囲は、北にある魔の森の拠点まで。指先で桜並木に沿って指定していき、「ポチッとな」とすれば、トトトトーンと赤いアスファルトが目の前を進んで行く。
「おお」
「すごーい」
「ふわー」
「へ?」
気が付いたら、背後にドワーフや孤児院の子供たちが立っていた。
「こいつは、石畳とは違うんだよな」
しゃがみこんでアスファルトを撫でているのは、ドワーフのリーダー、ヘンリックさん。
「あ、そうです。昨日、子供たちと一緒に拾ってきたルーアル石を使ってるんですよ」
「ルーアル石? 聞いたことねぇな」
「えーと、これ、この石がルーアル石というんですけど」
私は『収納』から、まだ残っていた赤い石を取り出してヘンリックさんに渡す。
「ほー。こんな赤い石なんぞ、どこにでも転がっていそうだが……うん? 随分脆いな」
「そうなんですよ。でも、この石じゃないと、このアスファルトができないみたいで」
「この道かい?」
コンコンと拳で叩いているのは、同じくドワーフのイエルンさん。ツルピカの頭には太陽の日差しが反射している。
「は、はい」
チラリとタブレットに目を向けると、指定した『アスファルト』の道が、北の拠点で作った道まで繋がったようだ。
興味津々なドワーフたちが集まってルーアル石とアスファルト、両方に関心を向けているうちに、私はスーパーカブを取り出す。
「その石は、差し上げます。新しいのが欲しければ、エイデン温泉に転がってますから、子供たちにでも聞いてください」
「お、おお。わかった」
私はエンジンをかけると、北の拠点に向かって走り出す。
――やっぱり、走りが違うよなぁ。
前の道だと、スーパーカブでは走る気にはならなかった。軽トラでもガタガタしてたし、それだけ、荒れた道ではあったのだ。
今は気持ちがいいほどスムーズだ。
――これなら、もう少しスピードあげてもいいよね。
ニヤリと笑った私は、スーパーカブをいつもより速く走らせることにした。
「うっひょー!」
信号を気にしないでいいので、気持ちよく走っていたら、気が付けば、魔の森の端が見える所までやってきていた。思っていたよりも、早くに到着したようで、びっくり。
――『アスファルト』って凄い。
凸凹のない道のありがたさを痛感した私であった。