第725話 ギャジー翁の本気
私の手には、ギャジー翁力作の『すまほ』がある。
前に渡された『すまほ』と比べて大きさは変わらない。上と下にエメラルドグリーンの魔石が嵌め込まれているのも同じ。違うのは、裏側。
「ボタンが3つ?」
ボタンといっても、小さな四角い白い石が嵌め込まれている感じだ。それぞれに、何か文字らしきものが描かれている。見覚えのあるこちら【異世界】の文字とは違うようだ。
「この文字は古代エルフ文字で、それぞれに対応する『すまほ』の所有者の名前が刻まれていて、これが登録を意味しています。一番右側が私の『すまほ』、真ん中がヴィッツのモノ、左側は未登録です」
「ほおほお」
「この『すまほ』は、すでにサツキ様専用となっております。試しに、私の『すまほ』から『発信』してみますね」
すると2つのエメラルドグリーンの魔石がチカチカと光りだした。
「じゅ、『受信』?」
魔石は明るく光ったまま、チカチカが止まる。
「どうですか、聞こえますか?(どうですか、聞こえますか?)」
「おお~、声が重なって聞こえる」
「今度はサツキ様のほうから『発信』してみてください」
「あ、はい。『発信』ギャジー翁」
ギャジー翁の『すまほ』もチカチカ光っている。彼のは初期型のままのようだ。
「よしよし、大丈夫そうですね」
無事にギャジー翁の『すまほ』にも着信できた。
今度はヴィッツさんにもかけてみようということになり、実際にやってみたら、ちゃんと通話することができた。
「え、電波ってどうなってるの、いや、これは無線ってこと?」
「『でんぱ』や『むせん』なるモノが何なのかは、わかりませんが、文書や小さな物を転送する魔法陣は存在しておりますから。ただ、声を届ける魔法陣は存在しておりませんでした。それをどうやって魔法陣にしたかといいますとね」
気合をいれたギャジー翁の様子に、長い話になりそうだったので、とりあえず、温泉の建物のあるところまで戻ろうということにした。
さすがに、こんな岩場で話し続ける感じではないし、魔法陣のことを話されても、たぶん私には理解できないと思う。
ルーアル石を集めていたウノハナたちにも声をかける。すでにかなりの量を集めてもらっていたので、すぐに『収納』すると、一緒に温泉の建物のほうへと下りていくことにした。
ちなみに、魔法の使えない獣人たちの場合はどうなるのか、と聞いてみたところ、彼らにも魔力自体は持っているらしい。
ただ魔力の使い道が、人族やエルフが使う魔法のような出力方法ではなく、身体能力の形で現れるのだそうだ。強力な腕力だったり、膂力、跳躍力、脚力などが、それだ。
ただ獣人たちは無意識に魔力を使っているので、『すまほ』に魔力を登録するのは苦労するだろう、とのこと。
でも登録できれば、私の『すまほ』でも連絡がとれるようになるから、何とか頑張ってみてほしいところだ。
それにしても、たった3日で、ここまでの物を作り上げるギャジー翁の本気が凄すぎる。
カメラ機能(動画も含む)や、音楽の聞ける魔道具も作る気満々のようで、私のスマホを参考にさせてもらえないか、と言われたが断った。
モリーナさんじゃないけど、分解して元通りに戻してもらえるとは思えないから。
いきなりスマホなみのものは難しいような気がするので、その代わりに、中古で安いカメラとかを買ってきてあげようかな、とは思った。