第719話 朝から元気な獣人たち
鳥の鳴き声で目が覚めるのは、いつものことなのだけれど、今朝の鳴き声はちょっと違った。
グェェェェ、グェェェェ
グェグェ
グェェェ
「な、なんの声!?」
ログハウスの部屋でがばりと身を起こす私。
いつもの自分の部屋じゃないことを、新しい木の匂いで思い出す。
小さいほうのログハウスの二階でTシャツに短パンで寝ていた私は、下だけジーンズに履き替えて階段を降りていく。
階下ではノワールとマリン、セバスといういつものメンバーに、テオまで加わって寝ていたようだが、さすがにあの鳴き声には目が覚めたらしい。
すでにテオが窓に張り付いている。
「おはよう……何の鳴き声?」
「サツキさま、おはよう。おれも、わかんない」
私の声に振り向いたテオは、少し不安そうな声だ。
しかし、ノワールたちは目が覚めてはいても起きてもこない。セバスにいたっては、鼻提灯すら出している。
――三人(?)の反応を見ると問題はなさそうだけど。
テオのそばに行って窓から外を見るけど、ログハウスの前の開けたところには何もいない。
私とテオは目を合わせると頷き合って、玄関のドアをあけて顔だけを出して様子を伺ってみる。
人の声が聞こえてはいるけれど、私には何を騒いでいるかまでは聞き取れなかった。
しかし、テオにはわかったらしく、すぐさま靴を履いて、拠点の敷地を飛び出していく。その反応の早さについていけなかった私は声をかける間もなかった。
――ど、どうしたんだろう。
すでに日は出ているとはいえ、まだ早い時間。
ひんやりした空気の中、私も靴をはいて外に出ると、拠点の入口のほうから賑やかな声が聞こえてきた。
「あ、サツキ様! おはようございます。すみません、起こしちゃいましたか」
声をかけてきたのは、ガイシャさん。どうも獣人の大人たちは朝っぱらから狩りに出ていたらしい。
オクタさんと30代の獣人のヘルゲさんに、ガンズさんが、それぞれ両手に大きな鳥を持って現れた。
テオはガイシャさんが持っている鳥にくぎ付けだ。
「いやぁ、昨日、ここに戻る途中にコイツらの巣を見つけましてね」
そう言ってオクタさんが持ち上げてみせてくれた鳥は、バカでかい真っ黒い鶏に見える。それこそ、ちびっ子ノワールくらいある。
これを鶏と言ってはいけない気がする(遠い目)。
こちら【異世界】の生き物で鶏に似ているのにワイルドコッコがいるのは知っているけれど、それとはまた違う種類らしい。
「まさか、あんな近いところに巣を作ってたとはな」
「それも三組もかたまってるなんて、珍しい」
ヘルゲさんとガンズさんが興奮しながら話している。
「コイツら、ナイトメアコッコっていうやつなんです」
「夜行性なもんで、明け方に巣に戻ってくるんですよ」
「肉も旨いんだが、卵も旨くって」
三人の後ろからスコル夫妻が大きな籠に、これまた大きな黒い卵をいれて戻ってきた。
メリーさんが、ものすごく嬉しそうな顔をしているのを見ると、相当美味しいんだろう。
「朝食には、これで目玉焼きにしますね」
メリーさんの言葉に、獣人たちは大盛り上がり。
――朝から元気だなぁ。
そんな風に思いながらも、彼らの反応に、私もおおいに期待してしまったのはいうまでもない。