第718話 階段作り(途中まで)と、狩りの成果
私は炭酸水の湧き水のある場所のところに向かう階段を、『ヒロゲルクン』の機能を使いまくり、七割ほど完成させることができた。
周囲の木を『伐採』し、段々を作るように『盛土』をして『地固め』する。さすがに土が剥き出しなのは、雨でドロドロになるのが目に見えているので、石段にした。
一段一段に少し幅を持たせたので、くねくねとつづら折りのようになってしまったけれど、急階段を上るほうがしんどいと思ったのだ。
問題は山裾まで流れている湧き水。
石を敷いてみるのがいいのか、ログハウスの池みたいに、塩ビの排水パイプを設置したほうがいいのか。
どちらにしても、泥は入り込んでしまうだろうから、時々は泥をかき出しに来ないとダメだろう。
――掃除道具を用意しておかないとダメだな。
毎回、私が来れるわけではないし、よく利用する獣人たちにマメにメンテナンスしてもらえるほうが現実的な気がする。
塩ビのパイプの用意はないし、気が付けば空も赤くなっているので、拠点に戻ろう。
「あー、ここから降りるのも疲れるー」
急ではないものの、長く続いている階段を見下ろし、げんなりしていると。
『私の背中に乗ればいいわ』
『私でもいいよ?』
いつの間にかそばに来ていた、ウノハナとシンジュ。全然気付いていなかったものだから、びっくり。
「え、お願いできる?」
『当然よ』
ウノハナが私が乗りやすいようにとしゃがんでくれたので、いそいそと背中に乗る。
ビャクヤやハクたちのようなオスと違って、ウノハナの毛ざわりは柔らかい。思わず、頬ずりしそうになるところで、立ち上がってしまった。
「うほっ!?」
『ゆっくりのほうがいいのよねぇ?』
「は、はい、お願いします」
軽やかに走るウノハナ。あっという間に山裾について、そのまま拠点にまで連れてきてもらってしまった。
「あ、おかえり~」
「みてみて~!」
「こんなの獲ってきたぞ!」
拠点の中に入ってみれば、皆戻ってきていて、中央では大きな焚き火がたかれていた。
獲物を持ち上げて(!?)見せたのはノワール。
ちびっ子ノワールの体の何倍あるんだ、というくらい大きな鹿を持ち上げているのだ。ちびっ子の姿ではあるものの、パワーはドラゴンってことなんだろう。
「す、すごいわね」
「本当に、すごいんですよ」
そう言うのは、スコル一家と一緒に来ていたオクタさん。40代くらいのオババの甥にあたる人だ。その彼ともう一人の30代くらいの男性二人で拠点に戻ろうとしているところで、遭遇したらしい。
「私らが戻ってくる途中で見たんですが、瞬殺ってのは、ああいうのをいうんでしょうな」
「へへん」
オクタさんが褒めるものだから、ノワールも得意げだ。
「こいつは、ビッグフォーンディアの亜種ですね。たぶん、群れのリーダーだったやつです」
そう言って、彼らの背後には山ほどの鹿が積まれている。
……内心、オークでなかったことに、ホッとしている。
「はぁ……。こんなに狩ってどうするのよ」
「むー、五月だったら持ち帰れるだろう?」
「これの角は、薬になるってオババが言ってたよ?」
「メェェェ」
ノワール、マリン、セバスに見上げられたら、持ち帰らないわけにもいかない。
この量だから、まだ血抜きも何もしていない状態らしい。仕方がないので全部タブレットに『収納』した。村に戻ったら、もれなく解体祭りが開催されることだろう。
「さぁ、さぁ。肉も焼けてきたんで、みんなどうぞ」
肉の焼けるいい匂いに、皆が笑顔になる。
「セバスちゃんが狩ったオークですよ。さぁ、どうぞ!」
メリーさんがにこやかにそう言った。
――最後の、それ、いりませんからっ!
叫びそうになった言葉を、私はなんとか飲み込んで、強張った笑顔を張り付けたのだった。