第717話 水路と、スコル一家
タブレットの画面を睨みつけ考え込む。
一応、山から流れてきた炭酸水でできた水たまりになっている所は、深め(2メートルくらい)の小さな真四角の穴を掘った。壁面は石を張り付けたような形になっている。
ちょろちょろと流れているので、まだすぐにはいっぱいにはならないだろう。
山から流れてくるので土が溜まりそうだけど、そのままだと、いつか溢れそうだ。細い水路を拠点のある南のほうへと、山裾に沿って伸ばしていくのがいいかもしれない。
水路のほうは膝丈くらいで、それほど深くないものを選んで、タブレットの『ヒロゲルクン』の地図でスーッと拠点の近くまで伸ばす。
トトトトンと出来上がっていくのを見るのは、気持ちいい。
「サツキ様!」
後ろから声をかけられたので振り向くと、スコル・メリー夫妻に、息子のガンズさんが大きな荷物を背負って現れた。
「こんにちは! その荷物は?」
彼らの背中に背負っているのは、かなり大きな毛皮を数枚重ねているようだ。暑くないのか、と思ったら、案の定、三人とも額から汗をダラダラ流している。
私の質問に、スコルさんがにやりと笑う。
「ちょうどゲレベロウスの巣を見つけましてね」
「親離れの直前だったようで、こんなにとれちゃいましたよ」
ニコニコ笑って答えるのはメリーさん。
息子のガンズさんは無言で頷いている。
ゲレベロウスは確か凶暴な熊の魔物だったはず。三人とも怪我は……なさそう。むしろ、余裕の笑み。
「サツキ様はお一人なんですか?」
周囲を見回しながら心配そうにメリーさんが聞いてきたので、ウノハナとシンジュがいることと、ガイシャさんたちが近くの水場にオークの解体に行ってしまったことを伝える。
「おお! オークですか。おチビさんたちとガイシャじゃ手が足りんだろう。ガンズ、荷物は預かるから、手伝いに行ってこい」
スコルさんの言葉にコクリと頷くと、荷物を足元に置いて、ぴょんと2メートルの高さのガーデンフェンスを飛びこえて魔の森のほうへと行ってしまった。
「すごっ!」
ドアのあるところまで行くのかと思ったので驚いていると、
「ハハハ、うちの村の者だったら、このくらいの高さは簡単ですよ」
「うは……」
身体能力の高い獣人あるあるなのかもしれない。
これは結界の機能のあるガーデンフェンスで正解だ、と、改めて思った。
拠点まで一緒に戻ると、長屋に置いてあった荷物を新たに建てたログハウスのほうへと移動してもらう。まだ戻ってきていない二人の獣人の荷物も移動させてもらった。
スコルさんも、メリーさんもログハウスにトイレとお風呂がついているのに気が付いて、大喜び。さっそく、それぞれに風呂に入りに行ってしまったので、私は荷物のなくなった長屋を『収納』してしまう。
「だいぶ広くなったわね」
長屋がなくなってできた空地に、せっかくなので『タテルクン』で大きい東屋を1軒建てた。
これで外での作業がしやすくなったらいいんだけれど。
――よし。中途半端な水路をやっつけようか。
拠点から出ると、少し手前のほうで水路が止まっている。まだ水は流れて来ない。
私は再びタブレットを取り出して、水路を伸ばしていく。魔の森が切れるところまで伸ばして、一旦止めておく。ここまで伸ばせば、そうそう溢れることはないだろう。
――あとは、炭酸水のところまで上る道をなんとかしないとね。
「はぁ。でも、今日中には、無理だなぁ」
空を見上げると、黄色味がかった空の色に変わってきていた。