第716話 異世界アスファルトと、炭酸水再び
拠点から出ると、ウノハナがむくりと身体を起こした。
『どこかでかけるの?』
「ううん、ここでちょっと新しいメニューの確認をしたいんだ」
『わたしたち、じゃま?』
「そんなことないけど、中に入っていてくれる?」
『わかった』
大人しく拠点の敷地の中に入ってくれる二匹を見送り、私はタブレットに向かう。
当然やるのは『アスファルト舗装』。
タブレットで範囲を指定する。材料が足りない、というエラーメッセージが出るところまで伸ばしてみる。
「あ、思ったより広いかも」
だいたい60メートルくらいのところでエラーメッセージが表示された。
『収納』にあった『ルーアル石』を全部使わなくても、50メートルは舗装できそうだ。意外に少量で済みそうなのに、ホッとする。
「これは、やるっきゃないよね。ポチッとな」
ストトトーンと目の前に伸びていくアスファルト……なんだけど、赤茶けた色なのは『ルーアル石』のせいだろうか。
見慣れたグレーのアスファルトでないので私には違和感はあるものの、自然の中にある分には馴染んで見える。
ペチペチと叩いてみるけど、熱くはない。凸凹のない道なので、これだったら軽トラでも、もっとスピードだして走れるだろう。
――そのためにも『ルーアル石』を採りに行かないとだけど。
村人たちに探すのを手伝ってもらってもいいだろうか、と考えていると、私の足元にウノハナとシンジュがやってきて、アスファルトになっている道をクンクンとニオイを嗅いでいる。
『ちょっと、変なニオイ』
「え、そうなの?」
『うん……でも薄いから、そのうち消えるかも』
あちらでありがちな、アスファルトを敷いたばかりの時のようなニオイも熱もないから、私は気にならなかったけど、嗅覚の敏感な生き物には感じ取れる程度なんだろう。
『ルーアル石』については、とりあえず、ここの拠点周辺のメンテナンスを終えてからでいいだろう。
「あとは、炭酸の湧き水のところよね」
時々、獣人たちがここまで来て、汲んで来てくれる炭酸水。
彼らが踏み固めた道が出来ているらしいけれど、私がのぼれるかの確認は出来ていない。それに、この前の大雨でどうなっているのか。ガイシャさんたちが来てるから、少しは片づけてくれてたらいいな、と思ったけれど。
「うわ~」
拠点から少し北に進んだところに山に入る道らしきものがあった。
「これは、ズルズル滑りそうね」
落ちた枝や葉っぱだけでなく、山の上から大量の水が流れてきたのか、流れた跡ができているし、その脇に水もちょろちょろと流れていて、ちょっとした水たまりが出来てしまっている。その周辺には小さな水の精霊たちがふよふよと浮かんでいる。
――もしかして、炭酸水の湧き水がここまで流れてきちゃってる?
すぐにタブレットで『鑑定』してみる。
+++++
▷水の精霊肝いり炭酸水だった水
+++++
ここまで流れてくるまでに炭酸も抜けて、ただの水状態。効能も消えている。
しかし作業できるような水場の感じではない。
拠点の近くに別の水場があると聞いてはいたので、ガイシャさんたちはそちらに解体しに行ったのだろう。
――うーん、どうしよう。
ガーデンフェンスと山裾の間の道幅は、軽トラや馬車が走れる程度。
ここに池を作るのもなぁ、と悩んでいると、ふと頭に浮かんだのは、何で見たのか、あちらの水で有名な観光地の用水路で、おばあさんたちが野菜を洗っている風景。
「うん。とりあえず、まずはここの水たまりをどうにかしようかね」
『シヨウカネ!』
『シヨウ! シヨウ!』
私の言葉に、小さな精霊たちが張り切りだして、思わずクスリと笑ってしまった。