第713話 北の拠点のメンテナンス(2)
ズドーンッ ザザザザッ
ズドーンッ ザザザザッ
私は目の前で起きている状況に、なかなか頭がついていかない。
「ひゃっほーい」
「こら、こっちに倒れてくるだろー」
「メェェェ」
ノワール、マリン、セバスが、拠点の周りの木を倒してくれているんだけれど、その方法が。(遠い目)
「サツキさま、ノワールたち、すげーな」
「うん」
テオも目をまん丸にして言っているし、ガイシャさんは言葉もでない。
ノワールもマリンも、あの小さな身体で蹴りをいれて、セバスは頭突きで倒しているのだ。
たいして力をいれているように見えないのに、なんであんな大木が倒れるのか。
……異世界スゲー。
私は気を取り直して、ノワールたちが倒した木をさっさと『収納』にしまい込む。
自分で『伐採』するつもりでいたけれど、そんなことをする間もなく、既存のガーデンフェンスのあった位置から20メートルくらいの幅の範囲で木がなくなった。
――ここまでくると、村くらいの大きさじゃない?
体感で、今までの拠点の倍くらい広く感じる。
私が株の部分を『収納』している間に、ガイシャさんに魔道具の草刈り機を渡して雑草を刈ってもらおうとしたんだけど。
「サツキさま! ここ、やくそういっぱい!」
「へ?」
「た、確かに、傷薬になるハプン草だな」
「あっちはメディカ(下痢止め)だ!」
テオたちが盛り上がっているのは、うちの山にも生えているそうなのだが、ここほど群生はしていないせいらしい。
せっかくなので彼らには薬草採取をお願いした。
「終わったら声をかけてくださいね」
「はい!」
「はーい!」
ズドーンッ ザザザザッ
「あ、ノワールたち、もういいよ!」
「えー。もっとやれるぞー」
「マリン、落ちてる葉っぱを集めてくれる? ノワールは枝もね」
ノワールより少しだけ体の大きいマリンに箒を渡し、ノワールには倒木で落ちた枝を拾ってもらうことにした。
「セバスは」
……気が付いたら、いなくなっていた。
セバスのことだから、マリンがいるからちゃんと戻ってくるとは思うけど。
――何かやらかさなきゃいいんだけど。
そう思いつつ、株を『収納』していく。
『収納』し終えた私はガーデンフェンスを設置することにした。
拠点の範囲にする場所を、落ちていた枝で地面に線を引いていく。 魔の森の際から少し離れたところがいいだろう。
タブレットの『ヒロゲルクン』の地図で、ちゃんと私の土地分、広くなっているのを確認する。
「で、ガーデンフェンスは、っと」
一番背の高い3メートルのガーデンフェンスを選んだ。
最初に設置したのは2メートルほどだったけれど、あの時はガーデンフェンスの上からオークの頭が出ていたのだ。せめて、奴らに拠点の中が見えないくらいにしておきたい。
「これでいいかな」
私はガーデンフェンスを選んでポチッとな、と設置していく。
一気にガーデンフェンスが建っていく様は、爽快だ。
「おお~」
「やっぱ、サツキさま、すげーな!」
「だな!」
薬草を手に、ニカリと笑うテオ。そんなテオに同意したガイシャさんは、テオそっくりの笑顔を浮かべている。いや、テオがそっくりなのか。
ガーデンフェンスが出来上がったので、次は長屋を片づけて、新たにログハウスを建てよう。
――長屋の中に荷物とか、置いてないかな。
念のため、一室一室確認していると、四棟の長屋のうち二棟に荷物が入っていた。
これは今回拠点に来ているメンバーの荷物のようなので、彼らが戻ってきたらどかしてもらわないといけない。
「こっちの二棟は片づけちゃうねー」
拠点にいる面々に声をかけてから長屋を『収納』して『分解』する。これで、再利用できるだろう。
長屋を片づけてできた空地に、何を建てようかと考えていると。
「メェェェ、メェェェ」
ガーデンフェンス越しにセバスの鳴き声が聞こえた。
「あ、中に戻れなくなった?」
私が焦っていたら。
「あ、ガーデンフェンスから離れろって」
「お土産だってさ」
――セバスのお土産?
マリンとノワールの吞気な声に、何を持って帰ってきたんだろう、と思ったら、何か大きな物がガーデンフェンスを飛び越えて、地面にドシンッという音とともに落下した。
「ひぃぃぃっ!」
地面に落ちているのは、巨大なオーク。
久しぶりに見た大きな魔物に、思わず悲鳴をあげた私なのであった。