第712話 北の拠点のメンテナンス(1)
北の拠点の中へと軽トラを乗り入れる。
「サツキ様、いらしたのですか」
少し驚いたような顔でそう言うのは、テオパパのガイシャさん。
村では狩人として、ダンジョンよりも山の中に入っていることが多い人だ。話を聞くと、昨日から親子揃って、狩りのついでに拠点の掃除に来ていたらしい。
狩りに来ていたのはこの二人だけではなく、スコル・メリー夫妻に、息子のガンズさん、あと二人ほどの獣人が来ているらしい。今は五人とも魔の森のほうへと出かけているそうだ。
「ノワールとマリンもきたのか」
「そうよ。テオは、ちゃんとお手伝いできてる?」
お姉さんぶったマリンに、テオはぷーっと頬を膨らませる。
「バカにするなよ。ちゃんとやってるよな、とうちゃん」
「あははは、そうだな」
ごしごしと頭を撫でるガイシャさん。
「今は、何をしてたんです?」
「ああ、燻製小屋の様子を見るのをメリー姉さんに頼まれたんで、様子を見ながら、ここの整備をしてました」
そう言われて、確かに煙の匂いがしているのに気が付く。
長屋のそばに、小さな小屋が出来ていて、そこから煙があがっていた。
拠点の中をぐるりと見渡すと、燻製小屋よりも一回り大きな小屋には、薪が積まれているし、獣の毛皮が何枚か干してある。
春に来た時は、もっと草ぼうぼうだったけど、今はすっかり、獣人たちの作業拠点になっているようだ。
「……もしかして、ちょっと狭い?」
この拠点には、最初に建てた四軒の長屋が残っている。トイレと風呂小屋は持ち帰ったので、今、ここにはない。
ログハウスに建て替えようと思ったのに、兎獣人のニコラたちと会ってバタバタしていて、すぐに村に帰ってしまって忘れてた。
敷地の半分が長屋になっているので、新しい小屋が増えて、軽トラもあるせいか、圧迫感がある。ウノハナたちも、入ってこないで、拠点の外で休んでいる。
「あー、すみません。色々と作ってしまって」
ぼりぼりと頭をかいているガイシャさん。
「いや、全然構わないですよ」
人が入ってくれている方が、傷みも少ないと思うから、こうして使ってくれるほうがありがたい。
「だったら、もう少し敷地を広げちゃおうか」
「そうね。もっと広いほうがいいと思うわ」
「せっかくだから、ちゃんとした家にしようぜ」
「そのつもりだったけど」
ノワールの言葉にジト目を向けたけど、スルーされた。
「うん、とりあえず、ガーデンフェンス外すから、皆、周りに気を付けてくれる?」
「はい!」
「まかせてなの~」
「俺がいるんだ。大丈夫だろ~」
ガイシャさんの気合の入った返事に対して、マリンとノワールの気の抜けた言葉に、へにょりと力が抜けそうになったところで。
「サツキさまをまもるのは、まかせろ! ガズゥにもたのまれてるからな!」
テオの言葉が嬉しくて胸がつまる。
「さ、さーて、お片付け、お片付け」
私は気を引き締めてタブレットを手に、拠点の周りを囲むガーデンフェンスを外していく。
「おお~、これは、随分と草ぼうぼうだね」
ガーデンフェンスに沿って、雑草が生えまくっていたので、『収納』に入れてあった魔道具の草刈り機を取り出す。
「周りの間伐はお願いしてもいいですか?」
「はい、お任せください」
「マリンとノワールは」
「俺たちだって、この程度の木なら切り倒せるぞ」
ポンポンと叩いている木は、見上げてもてっぺんが見えないくらい高い。
「いや、間違って、こっちに倒れてきたら」
「そんなへまはしないわよぉ」
「メェェェ」
ずっと静かにしていたセバスが返事をした。
「……あんたも何かやりたいの」
「メェェェ」
ムフンッと鼻息をはくセバスに、不安を感じたのは私だけではないと思う。