第710話 大地くん、帰る
外にいるだけで、まだじんわりと汗が出る。
今日は少し寝坊してしまったので、ログハウス周りの草刈りをすることにした。魔道具の草刈り機が微かな音をたてながら、雑草を刈り始めると、青臭い匂いが周囲に漂いだす。
周囲を風の精霊たちが飛び交っているおかげか、穏やかな風が抜けていく。
本当は、もう少し早く起きられたら、土砂降りの後の様子が気になっていた北の獣王国にある拠点の様子を見に行きたかったのだ。
しばらく村のほうが忙しくて行けなかったけど、村人が確認はして問題なさそうとは聞いている。
それでも、ちゃんと確認したいと思うし、メンテナンスもしたほうがいいと思うのだ。
「はぁ、それにしても昨夜は賑やかだったなぁ」
昨夜は大地くんの送別会だったのだ。
気が付いたら、夏休みがあと三日で終わるのに、ギャジー翁と魔道具作りに籠ってて忘れてたらしい。
そのお迎えに、いい笑顔の稲荷さんがお迎えにきたのだ。
「えー! あと少しで出来るところまで来てるのに!」
「い、稲荷様、もうちょっと、お時間を」
そんな大地くんとギャジー翁の願いも虚しく(いや、当然だと思うけど)、帰ることになったのは、言うまでもない。
――それでも稲荷さんも、ドワーフのお酒には勝てなかったけどね。
迎えに来たのが夕方だったのと、ドワーフたちに見つかったのが運の尽き。
大地くんが帰るんだったら、と宴の声があがったのだ。
ドワーフたちは、何かしらの理由をつけて飲みたかっただけだろうけど、稲荷さんも美味しそうなお酒(ドワーフ仕込み)を見せられたら、仕方がないなぁと胡散臭い笑みでついていくんだから、どうしようもない。
そうなると、村中が宴会状態。大きな東屋周辺に村人たちが集まって、ワイワイガヤガヤと賑やかだった。
私も少しご相伴にあずかって、ドワーフのお酒を少しだけ口にしたけれど、あれは無理だ。
ガツンと殴られたようなアルコールに、味わうどころではなかった。そのせいで、フラフラになった私をエイデンが運んでくれたのは覚えている。
……うん、玄関の前までは覚えているんだけど、その後は記憶にはなく、気が付いたら朝だった。
ちなみに、稲荷さんはエイデン温泉(仮)経由でやってきたので、車はなし。飲酒運転にはならず、夜遅くにエルフの里の家に大地くんと一緒に帰っていった、と風の精霊が教えてくれた。
「そういえば、大地くんたちが最後に作ってたのって、何だったんだろう」
草刈り機をとめて、考える。
村に来た当初は、この夏休み期間に、色々作るんだ、と気合をいれていた大地くん。
実際、最初の頃はギャジー翁を手伝って自転車に似た乗り物を作るのを頑張っていたらしい。結局、自転車よりも私のスーパーカブに似たような乗り物が出来たと聞いた。
馬のゴーレムが作れるんだから、簡単に作れそうな気がするんだけど、彼らとしては納得いく感じではなかったようだ。特に、動力となる魔石の消費が早くて、コストが見合わない、と言っていたような。
結局行き詰って、最近はまた違う物を作っているはず。
大地くんがいなくなって開発ペースは落ちるかもしれないけれど、ギャジー翁のことだから、すぐに結果を出しそうで楽しみではある。
――モリーナが邪魔しなければ、だろうけど。
けして変なフラグをたてたつもりはない。