第6話 夢で大きな狐と出会った(2)
あの暗い道を怯えながら、LEDのランタンの光でテントの場所まで戻ってくるだけで疲れてしまった。仕事帰りの夜道のなんと明るかったことか。
テントに戻ってみれば、もう焚火も炭が赤くくすぶっているだけになってしまっていた。私は簡単に片づけをするだけして、さっさと寝袋に潜り込んだ。
* * *
『おう、おう、待っておったぞ』
「うえっ!?」
聞き覚えのある声に目を向けると、目の前に狐が座って待ち構えていた。周りはやっぱりあの森の中の神社のようだ。
あれからストンと寝てしまったらしく、再び夢の中にいるらしい。
「あー、どうも」
『ふむ、で、買う気になったか?』
「え」
『山だよ、山』
「いや、あの、山ってどんな山なんですか? そもそも、それがわからなきゃ。それに、こう、あんまり不便なところだと、管理も何も。私、ただのOLですし」
『うーん、どの程度の不便を言っているのだ?』
そう聞かれたので、素直に答えてみる。
「まず、ちゃんと生活する場があるんですか? 山小屋とか? 風呂やトイレとか。水道や電気、ガスとか。それに買い物も。せめてコンビニが近くにあればいいですけど」
『……ないな』
「まぁ、山の中って言うくらいだし、そうかな、とは思いました。当然、ネットも使えないんでしょうね」
『……そうだな』
「さすがに、そういうところで生活するのは、私にはちょっと」
今の生活と同等くらいじゃなきゃ、山の中になんて住みたくはない。例え、スローライフが出来るといわれても。
『わ、わかった! も、もし、暮らしに不便がなければ、どうなのだ!』
「うーん、どんな山なんです? 熊とか猪が出るような深い山とかだと、怖いんですけど」
『ぐぅっ、し、自然の深いところだからな、出ないとは言えない』
「えー、もっと無理じゃないですか」
私に、マタギにでもなれというのだろうか。
さすがに猟友会みたいなのに入って、とか、無理すぎる。
『むむむぅ、いや、でもな、お前さんにお願いしたいんだよ』
「いやいや、無理ですって」
『そこをなんとか』
狐が拝んでいる姿を、夢とはいえ、見るとは思わなかった。だからといって、簡単に受けるような話ではないと思う。
『ほら、これ、この山、綺麗だろう?』
目の前に丸い鏡が浮かび上がったかと思ったら、中に広い山が映し出されている。確かに綺麗な山だけど、これのどこからどこまでを言っているのか? 相当広いように見えるけど。
『な? な? 綺麗な山だろ? 頼むよぉ~』
「無理です~」
私は延々と狐に縋りつかれる夢を見続けることになったのであった。