第702話 五月特製お札を作ろう(5)
マリンとノワールは自分で作ったプラ板に夢中になっているので、私は自分で作る分に集中している。
「よーし!できた!」
縮んだプラ板を取り出し、熱が下がるのを待つ。今回使ったのは、半透明のプラ板だ。
マリンたちのように本に挟んでしまうと、真っすぐになってしまうので、そのままの状態だ。
髪飾りにするバレッタの金具は、若干湾曲しているので、板を少し曲げたいのだ。
「少し冷えたかな」
指先で触れても大丈夫そうになったので、金具に合わせて曲げてみる。
「ん、ん~? 歪むなぁ」
もう少し固くなってからのほうがいいのかもしれない。
私はもう一枚、白いプラ板をトースターに入れようとした。
『サツキ様~!』
――この声は、キャサリン?
私が玄関のドアを開けてみると、そこにはキャサリンだけではなく、テオとマル、サリーの四人が立っていた。
「どうしたの?」
「こんにちは! あの、ノワールとマリンが子供の姿になってるって聞いて」
「ああ、なるほど。ノワール、マリン」
「なーに」
「あ、キャサリンだ」
二人の名前を呼ぶと、私の脇から顔を覗かせた。
「わ! 可愛い!」
キャサリンが嬉しそうな声をあげた。後ろにいたサリーも目をキラキラさせている。
「ここまで来るのは大変だったでしょ。今、飲み物出すから、そこで待ってて」
家の前の東屋で待つように言うと、私は家の中に戻り、冷蔵庫に入っている麦茶のペットボトルを取り出してコップに注ぐ。一応、この麦茶は煮出して作ったやつである。
東屋ではノワールたち含めた子供たちが、賑やかにしゃべっている。
「はい、お待たせ~」
コップを渡すと、テオたちは嬉しそうにごくごくと飲んでいて、キャサリンたちは大事そうにゆっくりと飲んでいる。
今日のキャサリンの装いは、村の女の子たちが着ているようなシンプルな半袖の鮮やかな青いワンピース。白い襟元に、チラリと銀色のチェーンが見える。
「もしかして、首にしてるのがロケットペンダント?」
「あ、はい。おじいさまから聞かれたのですか?」
「え、あ、うん」
嬉しそうに襟元からチェーンを取り出すと、思っていたよりも大ぶりのロケットが現れた。表面にはバラのような花柄が彫りこまれている。
蓋を開けると、そこには少年の立ち姿がモノクロで描かれた絵がはまっていた。たぶん、王太子なのだろうけれど、私が記憶している姿よりも少し幼い感じがする。
「私が公爵家に戻ってすぐに、おじいさまが下さったんです」
ポッと頬を染めるキャサリンに、すっかり女の子らしくなっちゃって、と近所のおばさんチックなことを思ってしまった。
私は気になっていることを聞いてみる。お札の件だ。
「あ、えーと、この絵の下って」
「……おじいさまから聞きました」
スッとキャサリンの顔が暗くなる。男の子組は話がわからないせいもあって、キョトンとしている。
「もう、中身は取り出してあります。精霊様が仰ってた通り、真っ黒に染まった札の残骸が入っておりました」
「そ、そっか……あ、そうだ。ノワール、マリン、さっき作ったのを見せてあげたら?」
空気が少しばかり重くなってしまったので、私はその場の雰囲気を変えようと、ノワールたちに話をふった。
「そうだ! これ、みてみて!」
「私とノワールで描いて、五月に作ってもらったのよ!」
透明の板に黒い模様が描かれているプラ板を、得意げに子供たちに見せる。
「なんだ?」
「ガラスのいた?」
「あら、でも、軽いわ。サリーも持ってみて」
「か、かるいです!」
子供たちがワイワイと楽し気に話し込んでいる様子に、ちょっとだけ安心した。





