第701話 五月特製お札を作ろう(4)
買い出しに行った翌日、朝から私はプラ板と向き合っている。
プラ板の種類は透明、半透明、白の三種類。あくまでベースの板にするだけなので、文字が見えないようにするには、白がいいかもしれないけど、何事もやってみないとわからない。
どれくらい縮むか予想できないので、大きめな長方形にカットしたプラ板を何種類か用意をして、その中で一番小さいサイズのプラ板に、細い黒の油性ペンで文字を書いた。
「えーと、あくりょうたいさん、と」
――キャサリンを守ってください。
稲荷さんのように達筆とはいかないので、フォントのゴシックのようにカクカクした文字を意識する。
……見られないほどではない、と思う。
「ん~。まぁ、まずは試しだし」
そう自分に言い聞かせ、一枚だけアルミホイルにのせて、オーブントースターで焼いてみる。まずは透明なのに書いたものだ。
トースターの窓から中を覗いていると、プラ板がふにゃふにゃと踊っているように形が変わり、グンとサイズが小さくなった。
「おお~」
「生きてる!?」
私と一緒に覗きこんでいたマリンが声をあげる。
「なー、なー、おれのもー!」
いつのまにか、透明なプラ板に油性ペンでいたずら書きをしたノワールが差し出してくる。
「え、ずるい! 私も書く!」
マリンも慌ててテーブルに戻って書くと、同じように差し出してきた。
……正直、どっちも意味をなさない柄だ。ノワールは蛇みたいにのたくってるだけだし、マリンは渦巻きがたくさん描いてある。
「ちょっと、待ってて! あ、溶けちゃう!」
二人の相手をしている間に、トースターの中に入れておいたプラ板が溶けてしまっていた。
「うー、目を離しちゃいかんかった」
慌ててアルミホイルごと取り出したけど、これはもうダメだ。
「ごめんなさい」
「ごめんー」
私ががっかりしているのが伝わったのか、二人ともしょんぼりしてしまった。
「大丈夫、大丈夫。まだテストみたいなものだから。それに、プラ板もまだあるしね」
そう慰めて、私は自分の二枚目をやる前に、ノワールのをやることにした。
ふにゃふにゃと蠢いているのを見て、二人とも大歓声。今回は溶ける前に取り出すことができたので、それをクッキングシートに挟んでから、本でプレスしたまま放置。
「縮んだ!」
「小さくなった!」
「うんうん、そうだね」
その間に、マリンのプラ板も同じように加熱して、溶けだす前に取り出す。ノワールのと同様に本でプレスするために、先に挟んでいたプラ板を取り出す。
プラ板には、まだほのかに温かさはあるものの、持てないほどではない。ギュッと縮んで、厚みができたし、もう固くなっている。
「はい。ノワールのね」
「おおー!」
出来上がったプラ板に、目をキラキラさせたノワール。ノワールの描いた柄(?)の透明な板なのだけれど、自分で描いたものだからなのか、凄く嬉しそうだ。
「私の、私のは?」
マリンが私のTシャツの裾を、引っ張って主張するので、マリンのプラ板も取り出して見る。
こちらもまだ熱が残っているけど、固くはなっているので大丈夫そうだ。
「わー、すごーい」
手に持ってペチペチと叩いたり、柄をジッと見つめてニヨニヨしたりと、嬉しそうなマリン。
二人が楽しそうにしている間、セバスは不機嫌そうにこっちを見ていた。
さすがに羊の蹄では、油性ペンは持てないから、仕方がないと思う。
カドコミ更新しています。
「山、買いました 〜異世界暮らしも悪くない〜 第4話-1」
https://comic-walker.com/detail/KC_005616_S/episodes/KC_0056160000500011_E
よろしければ、読んでみてください<(_ _)>





