第699話 五月特製お札を作ろう(2)
キャンプ場の事務所に入ると、夕方のせいか、お客さんの姿はなかった。
私に気付いたのはバイトらしき女の子が一人だけ。大学生くらいの若い女の子だ。今時の子にしては珍しく、真っ黒なストレートの髪を襟足近くで一本に結んでいる。
「いらっしゃいませ。ご予約のお名前は」
「あ、稲荷さんはいらっしゃいます? 望月といいますが」
「望月さん、ですか。ちょっとお待ちください」
一瞬、私を見る目が嫌な感じに変わった気がしたけれど、すぐに彼女は事務所の中に入っていった。
そこは『さん』じゃなくて、『様』じゃないかなー、あー、でも学生さんだから仕方ないのかぁ? と思いつつ、カウンターで待っていると、不機嫌そうな稲荷さんが事務所の奥から出てきた。
「あ、もしかして、忙しかったです?」
「いえいえ、お待たせしてすみません。どうぞ、中のほうに」
私の顔を見て、パッといつもの胡散臭そうな笑みを浮かべた稲荷さん。彼の言葉に頷くと、事務所の中に入れてもらった。
入れ違いに彼女はカウンターのほうに出て行ったんだけど、やっぱり、なんだか嫌な感じだ。
部屋の奥のテーブルの席に座ると、稲荷さんが麦茶と煎餅を持ってきてくれた。
「あ、ありがとうございます。こっちは暑いですねぇ」
「ハハハ、キャンプ場のほうは、だいぶマシですけどね」
冷たい麦茶を一飲み。
「はぁ。美味しい。あ、そうそう。大地くんですけど」
「ちょっと、待ってください(結界)」
稲荷さんが、胡散臭い笑みをはりつけた状態で、何かぽそりと呟いた。私には聞き取れなかったので、首を傾げる。
「すみませんね。で、大地の話でしたね」
「ええ」
大地くんの話といっても、無事に村にやってきてギャジー翁のところに籠りっぱなしだというだけの話だ。ギャジー翁と一緒に新たな魔道具に挑戦しているらしい。基本、こちらにある商品を魔道具化しているだけなんだけど。
上手く出来た物(魔道具化したオーブントースターとか)は、図面を書き起こして、エルフの里のほうにある、ギャジー翁の工房のほうに送って商品化しているらしい。
そんな話をした後に、私はキャサリンの守り札の話をした。
「まぁ、あちらの貴族たちの中は、ドロドロのぐっちゃぐっちゃなところが多いですからねぇ」
稲荷さんが口をへの字にして言う。
「しかし、彼女もそんな貴族の一員ではあるんで、仕方がないんでしょうが……そんな顔をしないでくださいよ」
チラリと私の顔を見る稲荷さん。ついつい、私も稲荷さん同様に、顔を顰めていたらしい。
「で、その守り札っていうのは」
「あ、こっちには持って来られないと思って、スマホで撮ってきたんです」
せっかく頂いた守り札を、トンネルの中で消失するわけにはいかない。
私はスマホの画面を稲荷さんに見せる。
「なるほど、なるほど……」
じーっと守り札の文字を読んでいた稲荷さん。
「随分と、無駄な文言が多いようですね」
「え?」
「今の文言では、本人の魔力を少し多めに使うことになっているようですね。文言を削れば、省力化できそうですけど」
「そうなんですか!?」
「ええ……ん~、ちょーっとお時間いただけたら、もう少しマシなのをご用意しますよ?」
こうして、稲荷さん(神)特製の守り札を頂けることになった。
やったね。





