第696話 大司教の話と、『聖女』の力
光の精霊曰く、今は、精霊も成長したから、王都に戻ってもなんとかなるだろう、とのこと。
しかし、前公爵にしてみれば、頼みの教会の『呪詛返しの札』がダメになっていることが、不安を煽っているようだ。
「一度、ピエランジェロ司祭に相談してみますか」
司祭であれば『呪詛返しの札』のことを知っていそうだし、もしかしたら、同じ物を持っていたりしないだろうか。
「ピエランジェロ……執事長の学生時代の友人だったか」
「はい。ピエランジェロは、元々、大司教でしたので、彼ならば」
「えっ」
――『大司教』とかって、初耳なんだけど!
ケイドンの街の司教だったのが、司祭に降格させられた、という話は子供たちから聞いていたけど、『大司教』って、もっと偉い人だった。
「ああ! あのピエランジェロか!」
「はい。旦那様が公爵領に引きこもってしまった頃に、大司教になったんですが……ゴンフリー大司教たちに嵌められて、王都から追い出されてしまったのです」
執事長さんが、忌々しそうな顔をしている。
「そういえば、ゴンフリー大司教は亡くなったと聞いたが、ピエランジェロは王都には戻らなかったのだな」
「ええ……」
チラリと私に目を向ける執事長さん。私、別に引き止めてませんけど。
「大司教だったのなら、『呪詛返しの札』のことを知っているだろう。よし、私自ら、聞きに行くか」
「いえ、あの、私のほうで聞いておきますから、その」
私は隣に座っているエイデンに目を向ける。
「エイデン、せっかくだから、ドラゴンの姿を見せて差し上げたら?」
「何!?」
私の言葉に前公爵は、腰を浮かせる。一方のエイデンは、なんで俺が、という顔をしたけれど、パチンッとウィンクすると、むーっと口を八の字に歪ませながら「仕方がない」と、引き受けてくれた。
私がピエランジェロ司祭に会いに行くことにしたのは、自分の『聖女』の力が、何かしら使えるんじゃないか、と思ったから。
明らかに自分の力で何かした、というのは、精霊たちを成長させたことが初めてだった。
その教会が出している『呪詛返しの札』というのを、私が意識して作ったら、キャサリンをちゃんと守れる札ができるんじゃ、と、少し期待していたりする。
ただ、この話を前公爵とかに知られるのは、なんとなく嫌だなぁ、と思った。
だったらピエランジェロ司祭は? となるんだけれど、彼はこの村のことを大事にしてくれているし、信頼感が違うというか。
「おおおー!」
「凄い!」
私が教会に向かおうと道を歩いていると、背後で野太い声があがっている。
上空に巨大な真っ黒いドラゴンの姿のエイデンが浮かんでいるから。
「さすが、エイデン」
キラキラと鱗が日に照らされて輝いている。
あんなに大きいと、ケイドンの街からでも見えたりしないのかなぁ、と少しだけ心配。また、わざわざ確認しにくる人とか、いないだろうか。
『おおきいよねぇ』
「大きすぎて、冒険者とかが確認とかに来そうじゃない?」
『いちおう、とおくからはみえないようにしてるみたいよー?』
私のそばに集まってきた精霊たちが、ペチャクチャおしゃべりしだした。
足元のホワイトウルフたちは、呆れたように鼻息を吐いている。
「凄い!」
『こりゅうだしねー』
『ほんきでおこらせちゃ、だめなあいて~』
『せいれいおうさまも、あいてにしたくないって~』
「そ、そんなに!?」
思わず、立ち止まって声をあげてしまった私なのであった。





