第694話 公爵家の使用人たちとグルターレ商会
魔道具のことを諦めた私は、どうしたものかと思いながら、グルターレ商会の様子を見に村を囲む石壁の外に出た。
グルターレ商会の仮店舗の前には、公爵家の使用人や騎士たちが集まっている。魔道具や武器のところに人だかりができるのは、獣人も人も変わらないようだ。
エルフたちはしっかり人族の姿に変化していて、カスティロスさんの人の姿も久しぶりに見た。あの美形が平凡な姿になっていて、誰もそれに気付かないのを見ると、ちょっとだけ笑ってしまう。
魔道具の仮店舗では、若い使用人たちが真剣な顔で選んでいる姿があった。
商品にはギャジー翁とモリーナが作った魔道具もそこに含まれているようで、うちで使っているオーブントースターもあった。他にも電気ケトルならぬ魔道ケトルに、メイドさんたちが興味津々な模様。
さすがに、うちにある馬車や馬のゴーレムのような大型の物はないが、アレも商品として扱っていたりするんだろうか。お高そうだけど、公爵家だったら買うことができるんじゃないか、と思った。
次に武器や防具の仮店舗には、騎士たちが興奮しながら武器を手にしている。以前はドワーフの国の工房の武器や防具がメインだったそうだが、今はうちのドワーフたちが作った武器や防具を仕入れているので、それがそのまま並んでいる。
他にもアクセサリーなどの装飾品や、食器、布などの生活用品の他、食料品を扱っていて、それぞれに人が集まっていたけれど。
「おいおい、この肉はなんだ」
「え、まさか、これって」
魔物肉を扱っている店の前で、エプロンをつけた人達が集まって大きな声をあげている。公爵家が連れてきた料理人だろうか。
「こちらはビッグフォーンディアですね」
「やっぱり!? この赤肉の具合からいっても、狩ってそれほど時間は経ってないよな」
「ええ。こちら、ワイルドグリズリーの肉もありますよ」
「ワイルドグリズリーだって!?」
名前のあがっている魔物の肉のほとんどは、獣王国の魔の森のそばにある、うちの拠点を中心にして、村人たちが狩ってきている魔物だ。商会のほうでは、ダンジョンで狩ってくる大量の肉も買い取ってくれるので、村のいい収入源になっている。
「凄いな」
「おい、ご主人様にマジックバッグの使用の許可をとってこい」
「は、はいっ!」
「すまん、この肉はあとどれほどあるか」
鼻息荒く聞いているおじさんに、エルフのほうは余裕の笑み。一瞬、私と目があったエルフが、ニヤリと笑った。
――あー、完全に金蔓扱いになってるなぁ。
うちの獣人たちだけではなく、エイデンが狩ってきたストックが、私の『収納』に入ったままなので、いくらでも出せるといえば、出せる。ありったけ買わせるつもりなのが透けて見えて、内心、ご愁傷様、と思ってしまった。
そんな風に盛り上がっているのを横目に、私は宿舎のほうへと向かう。
キャサリンのために何ができるか、祖父である前公爵にも相談したほうがいいかもしれない、と思ったのだ。
私の後ろをエイデンとホワイトウルフたちがついてきているけれど、公爵家の人々は気にしていないようだ。普通なら大柄なホワイトウルフたちを怖がりそうなものなのだけれど、なかなか肝が据わった人達が多い。
前公爵たちが使っている宿舎のドアをノックすると、にこやかな笑みを浮かべた執事長さんがドアを開けてくれた。





