第690話 キャサリンたちと精霊と
一通り、村の中を見て歩き、村人たちと挨拶を終えた私たちは、村の中の東屋で、冷たい麦茶を飲みながら、ホッと一息ついているところだ。
「ここは、涼しいですね」
そよそよと吹く風を受けながら、麦茶の入ったプラスチック製のコップを両手で持ったキャサリンが呟いた。
彼女の後ろには、すっかりメイドさんの仕事に慣れたサリーが、サリーママのマリアンさんの隣で目を伏せながら立っている。
護衛のハンナさんは東屋には入らず、周囲を警戒するように外に立っている。
ここで私たちに何かするような人も魔物もいないのだけれど、彼女の職業上、仕方がないのかもしれない。
私の隣にはエイデンが当然のように座っている。
「マウゼンのおじ様のところまでは転移門で来られたからよかったんですけど、そこからの馬車移動が」
キャサリンの眉がへにょりとたれる。
彼女の話を聞くところによると、去年の辺境伯領のほうが、今回の侯爵家(マウゼンのおじ様)よりも近かったので、移動期間が短かったらしい。
その上、馬車での移動中、断熱効果のある馬車の中はだいぶマシだったらしいけれど、休憩で馬車を下りるたび、外の暑さにげんなりしていたらしい。
今回の豪雨も、ケイドンの街に到着する前に巻き込まれて、なんとか街に到着しても、水がなかなかひかなくてしばらく足止めをくらったそうだ。
その時に泊った宿は、ケイドンでも高級な宿だったそうなのだが、ムシムシしてあまり居心地がよくなかったらしい。
「それなのに、ここはジメジメしてないので、ビックリしましたわ」
東屋の周囲を飛び回っている精霊たちが、胸をはって自慢げな姿に、吹き出しそうになるのを抑える私。
彼らの姿が見えているハンナさんも、笑いを堪えている。
多くの精霊は、この土地のものだけれど、キャサリンとサリーの周りにいる子たちは、他の精霊たちよりも小さく、色が薄く、透けて見えるようだ。
キャサリンの周りには、土と光、火の精霊、サリーの周りには水の精霊。ふよふよと飛んでいたり、肩の上で寝転んでいたりしている。
『(はー、いきかえる~!)』
『(やっぱり、ここはいいねぇ)』
『(あ゛ー!)』
『(だ~)』
何か言っているようなのだけれど、声が小さすぎて聞き取れない。
「ふむ。やはり、人の多いところでは、なかなか育たなかったと見えるな」
「え?」
「何でしょう?」
エイデンの言葉に、私とキャサリンが反応する。
「何、キャサリンとサリーのミサンガについていった精霊の話さ」
「あ、そういえば、そんなこと言ってたっけ」
去年、王太子たちと来た時に渡したミサンガに、小さな光の玉が飛び交ってたのを思い出す。それに比べれば、人型を保っているから、成長したと言えるのかもしれない。
「え、そうだったんですか!」
「!」
キャサリンとサリーは知らなかったようで、キョロキョロ周りを見るけれど、やはり彼女たちには見えないようだ。
「ハンナ、お前にもアレは見えているんだろう?」
東屋の外に立つハンナさんに、エイデンが問いかける。
「……はい。見えてます。微かに、ですが。当然、会話まではできません」
「え! ハンナは精霊が見えるの!?」
驚くキャサリンに、ハンナは困った顔になった。どうも、精霊のことは話をしていなかったらしい。
「はい。どうも、うちの家系は、精霊に好かれる体質のようでして」
――体質なんだぁ……。
彼女の言葉に、思わず、遠い目になってしまった私なのであった。





