第684話 商売人カスティロスさん
キャサリンと前公爵も着いたばかりということもあり、宿舎の中のモノ(お風呂やキッチンとか)は、去年も来ていたサリーのお母さんも同行しているようだったので、一旦落ち着いたところで、声をかけてくれるようにお願いした。
後からついて来ていたピエランジェロ司祭は、執事長さんと話をしてから戻るとのことなので、私とエイデンは先に村に戻ることにした。
「お客様ですか」
村に戻ると、グルターレ商会の面々はエルフの姿から人の姿に変わっている。久しぶりのその姿に、ちょっとだけびっくり。
見覚えのある人族の姿の男性が近寄ってくると、無表情な顔で聞いてきた。
カスティロスさんだ。
「エクスデーロ公爵家、のようですね」
「はい。でも、同じタイミングになるとは思いませんでしたよ。もしかして、カスティロスさんたちは、面識があったり?」
「まさか! コントリア王国の中でも王家の次に権力があるというエクスデーロ公爵家のような方々と面識などあるわけがございません。我々が相手にするようなのは、下位貴族や裕福な商家や平民がほとんど。せいぜい、その商家が高位貴族と繋がったりするくらいですよ」
「そのわりに、よくわかりましたね」
「うちの護衛たちが、よく働いてくれるので」
ニコリと笑って、馬車のそばにいた冒険者パーティの『焔の剣』の中で、一番若そうな華奢な男性に目を向ける。
それに気付いたのか、その男性がニコリと笑って手を振っている。
「彼が?」
「フフフ、サツキ様は気付かなかったかもしれませんが、皆さんの後を追って確認してきてくれたんですよ」
「え? そうなの?」
私は全然気付かなかったけど、公爵家の護衛の人達だって、気にしているようには見えなかった。
「ああ、影からコソコソ見ていたな」
私の背後に立っているエイデンが教えてくれた。
「エイデンは気付いてたの?」
「俺に気付かれずに近づける者などいない」
フンッ、と自慢気に鼻をならして腕を組むエイデンに、ちょっと呆れる。
「きっと、エイデン様やホワイトウルフたちの存在感のほうが強いので、あちらの護衛の方々も気付かなかったのでしょう」
「まぁ、アレもそこそこの手練れではあるようだがな」
エイデンがチラリと手を振っていた男性に目を向ける。彼が褒めるということは、なかなか凄いことなのでは、と思ったり。
「ありがとうございます」
カスティロスさんも、ちょっと嬉しそうだ。
「あの者からの話ですと、老人と少女の姿が見えたとのことですが」
「ええ。女の子のほうが、以前助けたことがあってね。去年も来たけれど、今年も遊びに来てくれたの」
「ほお……この村のことはご存知なのですね」
「ええ」
でも、村の中まで入れる人は限られている。キャサリンとサリー、あとサリーのお母さんまでは中に入れるだろう。去年同行していた人がいれば、その人も村までは入れるかもしれない。
キャサリンのお祖父さんだからといって、安易に村の中までいれていいのか、悩ましい。
今のところ、精霊たちの反応は、可もなく不可もなく、といったところか。
「ふーむ。もしよろしければ、私どもは村の外の小屋をお借りして、そこで商売をさせていただけませんか」
カスティロスさんが言っているのは、教会の前に並んでいる小屋のこと。去年は、そこでうちの村の物を売っていたのだ。今年は、まだ何も用意できていない。
「大丈夫ですか?」
「フフフ、せっかくの機会です。もしここで、あちら様との繋がりが出来たら、儲けものですよ」
商売人の顔で、ニコリと笑うカスティロスさんに、最初に会った時にいたカスティロスさんのお祖父さんの腹黒そうな笑顔が重なった気がした。





