第683話 エクスデーロ前公爵
私の目の前に立っているのは、前エクスデーロ公爵。キャサリンのおじいさんだ。
身体が大きいのもあるけど、目力が凄い。なかなかの迫力に、ちょっと声が出ない。
「おじいさま、こちらが私たちを助けて下さった、サツキ様とエイデン様です」
ニコニコと笑みを浮かべながら紹介してくれるキャサリンなのだが、肝心の前公爵が顔を強張らせたまま、立ち尽くしている。
「お祖父さま?」
前公爵の着ている薄手のジャケットの袖のところを、クイクイと引っ張るキャサリン。それでも固まっている前公爵。
彼が見ているのは私ではなく、背後に立っているエイデンだ。
「お祖父さまったら!」
「はっ! あ、ああ、そうだったな」
慌てたようにキャサリンに返事をする前公爵の顔は、少しだけ緩んで見える。強面だけど、キャサリンには弱いようだ。
その様子を見て、私も少し肩の力が抜けた。
「お初にお目にかかる。キャサリンの祖父のオーガスタス・エクスデーロだ」
「は、初めまして。望月五月……あ、サツキ・モチヅキです。後ろは、エイデンです」
「遅くなったが、孫娘を助けていただき、感謝する」
「いえいえ! 私だけで助けられたわけではないです! それに、人として当然のことをしたまでですから!」
そう答えると、強面の顔が少しだけ緩んだように見えた。
「人として、ですか……(それがなかなか出来ないのが、この世の中なのだが。さすが、『神に愛されし者』ということか)」
簡単な挨拶を終えると、前公爵は背後のエイデンに目を向けた。私に向けていた視線とは違い、熱をもった目線に、何かあるんだろうか、と不審に思う。
「そちらが、古龍様でいらっしゃいますか」
「……ああ」
「古龍様にも、我が孫娘をお救いいただき、感謝いたしております」
そう丁寧に言うと、前公爵は右手を左胸にあてて、深々と頭を下げた。
「頭を上げよ。俺は五月の手伝いをしただけだ」
そんな仰々しい挨拶を、エイデンは普通のことのように受けている。
その上、前公爵相手に気にするな、と言わんばかりに手を振って答えている姿に、エイデンって偉いんだっけ? と今更ながら思う私。
「いえ、これは、孫娘のことだけではないのです」
顔を上げた前公爵。目には薄っすらと涙が浮かんでいるように見える。
――え、なんで!?
ギョッとしたのは私だけではなく、エイデンもそうだし、キャサリンも驚いている。
「旦那様」
そこに諫めるように声をかけてきたのは、前に手紙を届けに来てくれた老人、サリーのおじいちゃんで、確か、執事長だったはず。
「ああ、ヴィクトル、すまん」
「モチヂュキ様、お久しぶりでございます。申し訳ございません。我々はあちらのお屋敷を使わせていただいても、よろしいでしょうか」
「は、はい。この敷地にある家は、すべて宿泊用ですので、皆さんでお使い頂いて大丈夫なものです」
「ありがとうございます」
執事長が手をサッと小さく振ると、馬車周辺にいた使用人らしき人々が動き始める。その中に、小さい女の子の姿が見えた。あれはサリーだろうか。私が一生懸命に手伝いをしている姿に目を奪われていると。
「古龍様、後でお時間をいただけないでしょうか」
真剣な様子の前公爵が、エイデンに声をかけていた。





