<焔の剣>(3)
ドゴールが近づいてきた老人からカスティロスを守るように前に出る。
「どうした」
「いえ、コントリア王国にお急ぎのようなので、もしよろしければと」
老人が教えてくれたのは、街道の途中にあるという細い脇道のこと。
小高い丘の峰を南下して、コントリア王国のケイドンの街の方面へと抜ける道があるらしいのだ。
比較的高台になっているので、浸水していないのではないか、とのこと。
「細い道なのと、抜けた先が荒地に繋がっているので、ほとんど使う者はおりません」
「なんで、そんな道をお前が知ってるんだ」
「若い頃はケイドンに住んでいたんだよ。若い人は知らないだろうけど、昔、その道のほうから魔物が溢れたことがあったんだ」
「なんだ、物騒な道だな」
「もう、随分と昔の話だし、私もケイドンを離れてしばらく経つ。今でも使えるかどうかはわかりませんが、先程、美味しいドライフルーツを頂いたので、情報だけでもと」
「……わかりました。ありがとうございます」
カスティロスが感謝を伝えると、ぺこりと頭を下げて、自分たちの馬車へと戻っていく老人の背中を見送るドゴールたち。
「南の荒地というなら、サツキ様たちの山が近いかもしれませんね」
「そうだな。そんな脇道があるんだったら、これから先もそちらを使えるにこしたことはない」
ニヤリと笑ったカスティロスに、ドゴールも笑みを浮かべた。
「ウィンドカッター」
カスティロスが風の魔法を発動し、目の前の草や木を切り倒していく。
「まさか、こんなに細い道だとは」
「あのじいさんが昔って言ってたからな。使っていなければ、草木が生えるのは仕方ないだろ」
実際、大きな街道から入る脇道は、すぐに見つけることはできた。入って暫くすると、獣道のような細さになって、馬車などが通り抜ける幅がなくなった。
今更、街道に戻るよりも、先に進むことを選んだ彼らは、どんどん草木を切って進んでいるのだ。
護衛たちには万が一の時に魔力切れになられたら困るというので、商会のエルフたちが順番に草木を魔法で切っていく。当然、切り倒した木は、全て仕入用のマジックバッグに収納していく。これも商品にしてしまうつもりなのだ。
「なるほど。確かに、ここは少し高いようだな」
丘の斜面側に出てきた彼らの視線の先には、水浸しになった荒地が目に入った。すでにコントリア王国側の黒雲は消え、薄っすら日が差し始めている。
日が傾き、どこかで野営をしないといけない時間になった頃。
「!? 何か来るぞ!」
虎獣人のキャシディが叫び、その声に護衛たちの間に緊張感が走る。
しばらく静けさが続く中、徐々に何かが近寄って来る音が、聞こえてくる。
「くそっ! オーガだっ!」
「それも、複数だぞ!?」
熊獣人のマックスと、虎獣人のキャシディにはオーガの臭いが届いていた。
「なんだって、こんな浅いところに」
「オーガは魔の森の奥にいるんじゃないんですか?」
少し焦っているドゴールとは違い、妙に冷静なカスティロス。
「そのはずなんですがね」
ドゴールがそう返事をした瞬間、木々の間にオーガの姿が視認できた。
「ふむ。ウィンドカッター」
カスティロスの指先から、風の刃が先頭を走っていたオーガに向かって飛んで行く。
「ガッ!?」
オーガの右腕に切り傷が出来るが、浅い。
「さすが、オーガ、ということですかね」
「……まったく。後は俺たちに任せてくださいよ!」
そう言うとドゴールはオーガに向かって走っていく。
三十分もせずに討伐を終わらせると、彼らは急ぎその場を離れる。日が落ちていても、その場で休むことなどはせず、前に進む。
なんとか脇道を抜けた頃には、朝日が昇り始めていた。





