<焔の剣>(2)
熊獣人のマックスは、愛馬である魔馬で大きな街道を走っていた。
向かう先は、コントリア王国とビヨルンテ獣王国との国境付近。休憩所で聞いた暴風雨の様子を確認するために、先行して走っている。
普通の馬よりも、魔馬のほうが速度も体力も段違いだし、ウルフ系の魔物くらいだったら、踏み殺すくらい強いのだ。
――雨が降り出したな。
国境に近づくにつれ、徐々に雲が増えていたが、雨が降るほどとは思っていなかった。しかし、黒雲が近づくにつれて、そういうわけにもいかなくなった。
国境までもう少しといったところで、遠くの黒い雲の中を稲光が走っているのが見えた。同時に。
ゴロゴロゴロ
低く雷の音が聞こえている。
――でも、この程度だったら、気にせず行けるんじゃないか。
確かに雨は降っているし、雷鳴も聞こえるが、最新式のグルターレ商会の馬車だったら問題なく行けると思われる。
休憩所の老人たちは、身の危険を感じるような暴風雨だったと言っていたが、今のところ問題があるようには感じない。
国境は小高い丘を越えたところにあるので、そこまで確認してから戻って報告するか、と魔馬を進めて見下ろしてみれば。
「なんだ、ありゃぁ……」
コントリア王国とビヨルンテ獣王国の国境には、一応、石垣が築かれているが、それほど高い物ではない。ただし、コントリア王国側の関所は、物々しい作りにはなっている。
その関所の周囲が完全に水没し、石垣も頭の部分しか見えないのだ。
元々、丘の下という低い場所にはあったものの、水没するほどの深さはなかったはずだ。
マックスが街道を魔馬に走らせている間、他の旅人の姿を見なかったのは、国境自体を越えられなかったせいだろう。
「おいおいおい、どんどん増水してんじゃねぇか?」
周囲を見ると、南のほうの林はすでに、木の中ほどまで水に浸かっている。まるで、大きな川の中に生えているような感じだ。
マックスは慌てて、魔馬を休憩所の方へと方向転換をすると猛スピードで戻ることにした。
休憩所に戻ってくる頃には、濡れていた軽鎧も、すっかり乾いてしまったマックスだったが、リーダーのドゴールとグルターレ商会の副会頭のカスティロスには、国境付近の土砂降りと増水していた状況を伝える。
ちなみに、休憩所に他の利用者がいたこともあり、カスティロスたち、エルフは皆、人族の姿に偽装している。
「まさか、そんなに酷いとは」
「参りましたねぇ」
雲の流れは、そのまま北上していくだけのようにも見えるが、その雲もかなり長く繋がっているように見える。
「商品を待っているお客さんがいるから、早いところコントリアに入りたいところですが」
「あの川みたいな流れは、船でもないかぎり、無理だと思いますぜ」
「そこまでですか」
「ええ」
「あの……」
うーん、と悩んでいるカスティロスたちに、おずおずと同じ休憩所を使っていた老人が話しかけてきた。





